各国の対立の根深さと
交渉の行き詰まりまざまざ
TPPシンガポール閣僚会議
「年内合意」をめざして12月7日から10日までシンガポールで開かれていたTPP閣僚会議は、来年1月に閣僚会議を開くことだけを決めて終わりました。この3年間、「来年こそは」という妥結目標を掲げ続けてきましたが、4回目の目標期限を設定できずに終わったことは、各国間の対立の根深さと交渉の行き詰まりをまざまざと示しています。
閣僚会議後に発表された共同声明では「実質的な進展が見られた」と強弁しているものの、中身はまったくなく、「潜在的な着地点を特定した」と述べているだけです。秘密交渉のため真相は不明ですが、ニュージーランドやカナダが知的財産の分野でアメリカの圧力に妥協したという情報もあり、なお警戒が必要です。
シンガポールで驚かされたのは二つ。8日には、政府が「期限の5分前になって初めて本当の交渉が始まる」と開き直っていましたが、5分前どころか、午後3時には交渉を終了。もう一つは、交渉のスピードアップのために閣僚会議を3つの「分科会」に分けて運営するという異例のやり方です。しかし、悪あがきは通用しませんでした。
21分野のうち、半分が難航
日本のマスコミが「来春正念場、漂流も」「空中分解の懸念も」と書かざるを得ないほど行きづまっている交渉の対立点は、アメリカが多国籍企業の利益を最大化することを目的に、各国の経済主権を踏みにじり、弱肉強食の競争原理を押しつけるところにあります。
たとえば、知的財産の分野では、アメリカが製薬企業の利益を優先して特許保護期間の延長を迫っていますが、新興国側は「安価な後発医薬品(ジェネリック)の利用は死活問題」として強く抵抗しています。
国有企業と外国企業とを同等に扱う競争条件や政府調達をめぐっては、経済発展の段階や経路も異なる国々に、力まかせに自由化原理を押しつけようとすることが反発をよんでいます。一部で合意済みと報道されている「投資家と国家との紛争解決(ISD)」手続きにも抵抗が続いています。
また、「調整役」を買って出て「日米で道筋を付け全体で年内妥結に向けて努力したい」(西村康稔内閣府副大臣)などと、アメリカの尻馬に乗った安倍政権も追い詰められています。
100%自由化を強要するアメリカ
関税撤廃が免除される「聖域」をアメリカが認めたとしてTPP交渉に参加した安倍首相の言い分は破たんしました。日本側が米や麦、畜産物などの「重要5項目」の自由化に大幅に踏み込む「95%」提案をしたにもかかわらず、アメリカはこれを一蹴。自らの保護貿易を棚に上げて「100%」の関税撤廃を迫りました。
アメリカ議会では、民主党下院議員201人中、151人がオバマ政権の自由貿易促進に反対するなど、TPPやEUとのFTA(TTIP)に対する批判が高まっています。
イギリスの新聞「フィナンシャル・タイムズ」は、TPP交渉の行き詰まりが明らかになった9日、次のように論評しました。
「オバマ大統領が自ら設定した21世紀型の貿易協定という目標に向けて前進したいのであれば、米国に残る19世紀型の保護政策を撤廃する必要がある。それには強力な国内ロビー勢力との戦いに、持てる政治力を注ぎ込まなければならない。といってもオバマ大統領の“手持ち”は危険なほど少ないのだが」
アメリカの強硬姿勢は“死に体”になりつつあるオバマ政権の焦りの裏返しです。日本国内では秘密保護法を強行し、国民的な怒りに包まれて内閣支持率を劇的にダウンさせた安倍政権。
追い詰められているのはTPP推進勢力です。今こそ展望を大きく持ち、TPP交渉を粉砕するときです。
(新聞「農民」2013.12.23付)
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