「農民」記事データベース20131216-1098-01

「攻めの農業」で攻められるのは農民!
戦後農政の総決算を許すな!


 参院選挙で「攻めの農業」「農業・農村所得倍増戦略」などを打ち上げた安倍内閣。その方向を規制改革会議や産業競争力会議など、農業とは無関係の学者や財界人に描かせ、11月26日、「攻めの農林水産業のための農政の改革」を打ち出しました。

 安倍内閣の「農政改革」のねらいの全体像は、(1)関税撤廃が求められるTPPへの参加を前提に、(2)“日本を世界で最も企業活動の自由な国にする”という立場から、農業・農村を企業のビジネスチャンスにすること。

 こうした立場から、生産調整や米政策、経営所得対策、直接支払政策、農地・構造政策、団体(農協・農業委員会)など、相互に関連する政策を総見直しするもので、まさしく戦後農政の総決算であり、農民を「攻め」落とし、地域農業を根底から破壊するとんでもないものです。

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安倍「農政改革」は農家に大打撃

 今回の「改革」はその第一歩で、今後、農業生産法人の要件緩和や企業の農地所有など、企業のビジネスチャンスにするための規制緩和がねらわれています。

 今回の「改革」の主なポイント(表参照)は、次の通りです。

 経営所得安定対策を来年から半減し5年後に廃止

画像  第1の柱は次の通りです。

 (1)平成22年度(2010年)に民主党政権が始めた、生産調整を達成した全販売農家を対象に10アール1万5000円を固定払いする「戸別所得補償制度」(安倍政権で経営所得安定対策に名称変更)を、26年産から7500円に半減させ、30年産で打ち切る。

 (2)米価が標準販売価格より低下した場合、差額を生産者の拠出なしに補てんする「米価変動補てん交付金」を26年産から打ち切る。

 (3)畑作物の直接支払交付金(ゲタ)は、価格を大豆で60キロあたり350円増、小麦で40円減などとする見直しを行い、平成27年度からは認定農業者と集落営農、認定就農者に限定する。

 (4)水田・畑作の収入減少影響緩和対策(ナラシ)は、平成26年は米の固定払いの加入者に限ってナラシに加入していなくても国費分の50%を交付し、農家拠出は求めない。27年からはゲタ同様に対象を絞り込む。

 「岩盤対策」としてきた「経営所得安定対策」の縮小・廃止は、「改革」の核であり、農家を追い出して企業と大規模農家に農地を集中させる冷酷なテコです。しかし、ねらいとは裏腹に打撃が最も深刻なのは、「担い手」として農地を集積し、育成されてきた大規模農家や集落営農組織です。

 日本農業法人化協会によれば、2011年の組織経営体の収支は営業利益段階では赤字であり、制度受取金によって黒字を確保していますが、経営所得安定対策が半減されれば50ヘクタールの経営でも経常利益は赤字になると試算。これでは大規模経営が真っ先に「農地中間管理機構」に農地を預けることになりかねません。

 政府が米政策から撤退して市場に丸投げ

 第2の柱は、「生産者が生産数量目標に頼らず、自らの判断で需要に応じた生産が行われるように環境を整備する」として5年後に生産調整(減反)を廃止することです。

 生産調整は、1970年に100万トンの減産以来、43年間続けられてきました。「強制減反」は、自民党農政の失政の象徴であり、農業と農村を衰退させ、田んぼを荒らした評判の悪い政策ですが、今回の減反廃止は、これまでの反省を踏まえたものではありません。TPPで関税の撤廃を受け入れれば、アメリカやベトナムなどから米が輸入されるため“消費に見合った生産”という生産調整が機能できなくなるからです。TPP参加を契機に、政府が米の需給と生産への責任を全面的に放棄するもので、政府が生産コスト9600円(1俵60キロ)を目標にしているように、米価の大暴落は避けられません。

 「経営所得安定対策」や「米価変動補てん交付金」制度を廃止して、さらに米価が下落したら、米を生産する農家が消えてしまいます。「米価下落対策」として唯一、検討されているのが「収入保険」。価格対策としての収入保険は、政府と農家が掛け金を負担し、暴落時の収入減を補てんするものですが、検討されているのは国が関与しない単なる「民間保険」で政策の名に値しません。

 飼料用米をフル活用の中心にするというが

 水田フル活用の“目玉”として、今後、需要増が見込まれる飼料用米を「本作」として打ち出し、数量払いを導入して最高で10アールあたり10万5000円(最低で5万5000円)を交付するとしています。毎年8万トンずつ生産を拡大し、農家所得が13%増える(農水省)と豪語しています。しかし、100万人以上の農家が対象となっている「経営所得安定対策」をバッサリ切って捨て、“絵に描いた餅”になりかねない飼料用米を根拠に“所得増”とは、欺瞞(ぎまん)も甚だしいといわなければなりません。

 需要増が見込まれるといいますが、飼料価格の高騰で畜産農家が激減し、TPPで関税が撤廃されたら需要減は避けられません。養鶏以外の畜種に飼料米の普及が進んでいないのが実態であり、農家と飼料実需者とのマッチング、施設の不備などの対策はありません。飼料用米を主食用に切り替えた場合に、主食用米に飼料用米が混入するという深刻な問題があります。

 「日本型直接払い」は

 「改革」のもう一つの目玉は、来年度から発足させる「日本型直接支払制度(多面的機能支払い)」。地域が共同して行う農地、水路、農道を維持するための取り組みのコストを補てんするとし、地域ごとに市町村との協定が必要です。「農地維持支払い」と「資源向上支払い」からなり、あわせて10アール当たり田で都府県5400円、北海道4220円、畑で都府県3440円、北海道1480円、草地で都府県490円、北海道250円。

 地域の取り組みへの支援の拡充は必要ですが、この制度のねらいは「担い手の負担を軽減し、構造改革をあと押し」すること。農水省の担当者は、「農地の8割を大規模経営や農外企業が担うことになれば、多く農家が『土地持ち非農家』となり、総出で行ってきた農地や水路、農道の維持管路が困難になり、担い手の負担が増える。特に『農地中間管理機構』を通じて農外の企業が参入すれば一層困難になる。そのための対策だ」としています。

 「産業競争力会議」の議論で、農地集積や企業参入は「集落民主主義では進まない」(9月3日、大泉委員)と暴言を吐き、農家の多数を農業から締め出して集落機能を弱める方向に踏み出しながら、草刈りと水路の維持管理には「土地持ち非農家」をつなぎとめたいというねらいが見え見えです。

 戦後農政の総決算を許さないたたかいを全国で

 TPPに便乗して家族経営農業を否定する「アベノミクス型農政」は、地域で懸命にがんばる農家、担い手、農協や自治体の努力を根底からひっくり返すもので、破たんは避けられません。

 いま、求められる農政の方向は、農民連が一貫して主張している(1)TPP参加をやめるなど農産物の野放図な輸入をコントロールし、(2)生産費を償う価格保障と所得補償を組み合わせた経営所得安定対策を確立する、(3)多様な担い手確保を国、自治体、団体があげて取り組む――ことにあります。

 政府は、「改革」のための法案を来年の通常国会に提出するとしています。

 TPP、特定秘密保護法、原発問題など、安倍暴走政治と国民との矛盾は、抜き差しならない状況となっています。こうしたたたかいとも結んで、地域からの総反撃で悪法をストップさせるたたかいが求められます。

 同時に、地域や集落を主体にした住民ぐるみの多様な取り組みで地域を守り、発展させる運動が求められています。

(新聞「農民」2013.12.16付)
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2013年12月

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