「農民」記事データベース20131209-1097-14

21世紀水産を考える会フォーラム

ビキニ事件の真相と
福島原発の今後の対応
〈下〉

太平洋被災支援センター事務局長
山下正寿さんの基調講演


原因判断せず汚染水漏れ続く
国の責任で検査、研究体制を

 ビキニ事件では、汚染マグロの放射能は、最初は「死の灰」に触れた皮から見つかり、やがて汚染海域で泳いでいるうちにエラ、内臓から高濃度で検出されるようになりました。そして6カ月くらいして、セシウムは身に、ストロンチウムは骨に移動していくわけです。

 アメリカは、「水爆実験をしても海洋汚染なんてすぐに薄まる、大丈夫だ」と主張していました。

 そこで日本政府も損害賠償の基準になる海洋やマグロの汚染を調べるために、1954年5月、俊鶻丸(しゅんこつまる)という調査船を出し、気象や水産関係など関連するあらゆる分野の、きわめて良心的な研究者が乗り込みました。そしてビキニ環礁に近づくにつれて、海水をかぶるだけでも危ないくらいの汚染があることを調べたのです。

 「福島」「ビキニ」海洋汚染が共通

 福島原発の被災とビキニ事件で、もっとも共通しているのは海洋汚染です。

 私も参加した高知の調査チームは、2011年6月、12月、2012年5月、2013年6月の4回にわたって茨城県や福島県を訪れ、漁協関係者や漁業者、加工業者の方から聞き取り調査をしました。茨城県の大津漁協の調査では、東京電力から漁協にひとことの相談もなく、汚染水が海洋放出されていたことがわかりました。東電は最初から漁協を言いなりになるものとしか見ておらず、相談相手だとはまったく考えていなかったのだと思います。

 最初に東京電力が4700テラベクレルもの汚染水を海洋放出したのもとんでもないことですが、いま大問題になっている地下水汚染の危険性も、事故直後の6月に専門家から指摘されていました。今でも原因は判明せず、汚染水も漏れ続けています。汚染水も泥縄式の対策でなく、俊鶻丸の調査のように、地質学や海洋学など総合的な科学者がチームを組んで対策にあたることが急務だと思います。

 もう一つ、汚染水問題で重大だと思うのが、ストロンチウムの漏出です。ストロンチウムは調べるのに1カ月ほどかかり、汚染の実態がきちんと調べられていません。水産物の放射能検査もきちんとやり、汚染した魚が市場に出回らないように監視を強める必要があります。

 風評被害防止に食品検査が重要

 食品の検査は風評被害を防ぐためにも非常に重要で、消費者が安心できるよう、データは徹底的に公表されなければいけません。

 ビキニ事件でもそうでしたが、最初に汚染するのはプランクトンで、次はそれを捕食するコウナゴなどの小魚類に汚染が見つかるのですが、これは寿命も短いのでそれほど長くは汚染し続けません。むしろ今は、沿岸の海底に住みついていて、放射性物質がたまる泥の中に住むゴカイ類を捕食しているアイナメなどの底魚(そこざかな)の仲間から高い汚染が見つかっています。

 事故から2〜3年がたち、今後はプランクトンを食べるカツオやマグロ、ブリなどの回遊魚も検査する必要があると思います。とくにストロンチウムはセシウムなどと違って魚体から排出されませんから、要注意です。

 このように、検査も海洋生物の生態や汚染実態に合った魚種を選定して、もっと数多く検査する必要があります。しかし今はそれが徹底的に遅れています。消費者の口に入る手前、築地市場などでの抜き打ち調査も必要ではないでしょうか。

 いずれにしても、日本人は魚をこんなにたくさん食べる国民なのですから、それにふさわしく、国が費用を出して、責任を持って検査し、研究する体制を作るべきだと思います。

(おわり)

(新聞「農民」2013.12.9付)
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2013年12月

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