「農民」記事データベース20131021-1090-13

直売所が一丸に、農民連も協力
東電から損害賠償勝ち取る

生産者損害分と農家委託販売分

関連/命を守れ モンサント NO !

 千葉県北部の柏市は、都心から電車で1時間ほどの近郊都市です。柏駅から車やバスで約10分の農産物直売所「かしわで」は、市民に「新鮮で旬な農産物が買える」と評判です。しかし、2年前の東日本大震災とそれに続く福島第一原発事故を受け、客数と売り上げが減り、東京電力に損害賠償を求めました。農民連とともに粘り強く働きかけた結果、賠償金が支払われ、新たな歩みを始めています。


市民に親しまれる直売所「かしわで」
千葉・柏市

 交流を深め合う情報の受発信地

 「かしわで」の由来は、古くは、かしわの葉で食器をつくったことから飲食の饗膳(きょうぜん)・供膳や宮中の食事を司る人(膳(かしわ))の意味があります。「柏の新鮮な農産物を食卓にのせてもらいたい」と願う生産者の気持ちと、「柏で採れたての食材をリーズナブルにそろえたい」と望む消費者の気持ちを両方の手のひらになぞらえて命名されました。

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新鮮な野菜が並ぶ「かしわで」

 2004年5月にオープン。母体の株式会社アグリプラスを市内の農家15人が立ち上げ、社長に染谷茂さん(64)が就任しました。

 染谷さんが仲間たちと消費者との交流を続けるなかで、直売所の設立にたどり着きました。

 「かしわで」の運営理念は、(1)物を売る・買うだけの場ではなく、農業に関する情報の受発信地として広く市民(消費者)に利用され、生産者と消費者が農業を通して互いにふれあい、交流を深め合う場となることをめざす(2)地元で生産した農産物を地元で消費する「地産地消」の事業展開を図り、消費者に農業に対する理解を深めてもらうとともに、都市の中で共生する農業をめざす(3)生産地であるとともに消費地でもあるメリットを生かし、都市型農業を実践することにより、地域農業の活性化を図り、農家の所得向上をめざす――などです。

大震災と原発事故で
客数と売り上げ激減

 農・畜産物へのこだわりが魅力

 発足以降、07年に来客数のべ100万人を達成し、09年にはのべ200万人を突破するなど、順風満帆に売り上げを伸ばしてきましたが、2011年3月に、震災・原発事故に見舞われました。

 原発事故の影響で、柏市がホットスポットとしてテレビ、新聞、週刊誌に取り上げられたのです。5、6月には客数は多いときの3分の2程度に落ち込みました。

 その後、客数は徐々に戻りつつあるものの、震災前の水準をまだ回復していません。しかし、根強いファンは健在です。週に1回は買い物に来るという市内の女性(37)は「野菜が新鮮なのが一番。スーパーとは違いますね。生産者ごとに値段や量が違っていて選ぶ幅があって助かります。野菜や畜産物へのこだわりが魅力です」と称賛します。

 完全回復まで訴えつづける

 染谷さんは、「もうけのためでなく地域の農業を何とかしようと立ち上げた直売所が放射能で立ち行かなくなり、農家のこだわりが否定されるのは許せない」と東電への損害賠償請求に本格的に取り組みました。

 近隣自治体の知り合いの農民連会員から紹介されて、2012年8月、千葉県農民連を訪れました。そこから綿密な打ち合わせと賠償請求書の提出、東電との交渉を繰り返し、今年の8月に、生産者損害分と、直売所の農家委託販売分の賠償を勝ち取りました。

 「かしわで」に米やネギを出荷している関根勝敏さん(48)は原発事故後に売り上げが4割減りました。「直売所が一丸となって、農民連の協力を得ながら勝ち取った成果です。完全に回復するまで訴え続けます」とさらに闘志を燃やします。

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カブ栽培用の肥料をまく関根さん

 直売所として、より厳しい基準を設け、農産物の検査を行っていますが、それだけでは消費者の安心にはつながらないと、昨年3月に第三者会議「安全・安心プラン推進委員会」を設け、第三者の意見を取り入れながら、消費者の安心を得る努力も進行中です。

 さらに農家自身が放射線の勉強をし、個々のほ場にどれだけの放射性物質があるのかを調査して、汚染状況を知り、そのうえで、リスクを低減できる栽培方法を編み出しています。

 安全面の問題だけでなく、今後は原発事故を乗り越えて市民との交流や地域への貢献をさらに図り、広範なファンの獲得をめざします。

 「かしわで」の新たな魅力づくりが始まっています。


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東京・日の出町 折田眞知子

(新聞「農民」2013.10.21付)
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2013年10月

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