「農民」記事データベース20131021-1090-02

TPP首脳会合と安倍政権の
暴走に強く抗議する

2013年10月10日
農民運動全国連合会会長 白石淳一


 一、「交渉の年内妥結を宣言する」という事前の誇大宣伝にもかかわらず、10月8日に開かれたTPP首脳会合は、アメリカが盛り込むことを要求した「作業を実質的に終えた」「大筋合意」という表現をしりぞけ、「年内に妥結することを目的に、残された困難な課題の解決に取り組む」ことを交渉官に指示することを「合意」したにすぎない。

 TPP推進を基本路線とする日本のマスコミでさえ「TPPは失速の瀬戸際」(産経)、「『新興・途上国対米国など先進国』の構図が明確になってしまえば、WTO(世界貿易機関)のドーハ・ラウンドと同様、崩壊の危機にひんしかねない」(毎日)と論評しているが、これが交渉の実態である。

 一、「大筋合意」とは、基本的な課題が決着し、技術的な問題が残るだけという状態のはずである。しかし、首脳会合声明が「残された困難な課題の解決に取り組む」と自認せざるをえなかったように、21交渉分野のうち半数以上が対立・難航したままである。

 交渉の実態は、通商協定の中核というべき農産物・工業製品の関税や、ジェネリック医薬品の入手を不可能にする医薬品の特許期間の延長、多国籍企業が進出先の政府・自治体の政策・法制度に干渉するISD条項、国営企業の民営化、政府調達の開放など、肝心の問題で抜きがたい対立と矛盾を残したままである。関税をすべて撤廃し、各国国民の暮らしに関わるルールを「非関税障壁」として撤廃・削減するTPPそのものの危険性に根源がある。

 一、安倍政権は「交渉の年内妥結に向けて大きな流れができた」(安倍首相)、「(日本政府の判断として)大筋合意だ」(甘利TPP担当相)と述べているが、「大筋合意」などと評価しているのは日本だけである。しかも許しがたいのは、会合を欠席したオバマ大統領に代わって、安倍政権が交渉促進の役割を二重に果たしたことである。

 第一に、安倍首相は「年内に交渉を妥結すべく閣僚や首席交渉官に指示を出すのが役割ではないか」と発言し、各国に年内妥結を促したと記者団に公言した。

 一、第二に、首相が「族をもって族を制す」目的で党内の調整役に登用した西川・自民党TPP対策委員長は、首脳会合直前の6日に、米をはじめとする重要5農産物を関税撤廃の例外からはずすことを検討すると公言し、安倍首相や石破幹事長、麻生副首相などがこれを追認した。

 オバマ大統領欠席で交渉の年内妥結が不透明さを増したため「日本が主体的に動き、『聖域』に切り込む意欲を強くアピールして」打開をはかる思惑によると指摘されている(北海道新聞)。しかし、参院選公約も国会決議も「10年を越える段階的な関税撤廃も認めない。聖域を確保できないと判断した場合は、交渉からの脱退も辞さない」としていたのであって、どう言いつくろおうと重大な公約・決議の裏切りである。

 加工品や調整品も重要農産物の一部である。これらの関税撤廃がアリの一穴となって重大な打撃につながることは、これまで日本の商社が画策して米粉や冷凍弁当、寿司などの関税逃れの「調整品」を“発明”し、輸入してきた歴史からも明白である。さらに「ISD条項には合意しない」ことを明記していた公約と国会決議に反して、交渉でISD条項導入を公然と主張していることも重大な裏切りである。

 一、農民連は、国民と農民に対する安倍政権の裏切りを怒りをこめて糾弾し、交渉からただちに撤退することを強く要求する。

 同時に、交渉の成り行きで「聖域を確保できないと判断」する以前に、自らの意思で聖域放棄を検討し、さらに消費税増税の強行や「放射能はコントロールされている」などと言ってのけて原発の再稼働をねらう安倍政権の暴走は、国民の願いとは絶対に相いれないことを厳しく指摘するものである。

 一、TPP反対の国際ネットワークは、TPPの秘密交渉を白日のもとにさらす運動を進めているが、その結果、TPP参加国のなかで反対の動きが強まりつつある。たとえば、マハティール元マレーシア首相は「アメリカが自国の利益をアジアで追求するために、新たな経済ルールを導入するものだ」と反対のキャンペーンを進めており、ナジブ・マレーシア首相も、国家主権と国内政策の決定権限、国民生活を守るために「慎重」な交渉を要求している。

 また、アメリカの対外政策決定に対して強い影響力を持つ「外交問題評議会」は「ファースト・トラックがなく、TPPに対する議会の懸念が強いので、TPP協定は米国連邦議会に提出されるやいなや廃案になる可能性が高い」との論評を公表している。農民連は、TPP反対の内外の潮流と連帯し、TPP交渉の中止を求める運動の発展に総力をあげる。

(新聞「農民」2013.10.21付)
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2013年10月

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