「農民」記事データベース20131021-1090-01

りょうぜん市民共同発電所
福島県北農民連第1発電所

市民・住民の支援で完成!

自然エネルギー普及第1号

 福島県伊達市霊山(りょうぜん)町に、福島県農民連とNPO法人「自然エネルギー市民の会」の連携で実現した「福島りょうぜん市民共同発電所」と、福島県北農民連の「福島県北農民連第1発電所」が完成し、9月4日から売電が始まりました。10月5日には、大阪や東京などからも出資者らがかけつけ、ズラリと並んだ太陽光パネルの前で「完成を祝う会」が行われました。


福島応援の熱い思いあってこそ
全国から1・5倍もの出資応募

 自然エネルギー市民の会が協力

画像  「3・11の原発事故以降、何か福島のためにできることはないか、福島の人に元気になってもらえることはないかと、考え続けてきました。こうして福島県農民連の皆さんと市民共同発電所が実現できて、本当にうれしい」――自然エネルギー市民の会会員で、出資者の一人、坂本允子(よしこ)さん(大阪府)は、発電所発足の喜びをこう話します。

 市民共同発電所は、市民や住民が資金を出資して、太陽光や風力などの発電所を建設する自然エネルギー普及の取り組み。この「りょうぜん市民共同発電所」は、1口20万円で100口分、2000万円の建設費用が集められ、設備容量50キロワット(一般家庭の約15〜20世帯分)の太陽光パネルが設置されました。

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自然エネルギー市民の会の代表理事で、日本環境学会前会長(右から2人目)の和田武さんもかけつけ、にぎやかにテープカット

 発電した電気は、昨年から施行された再生可能エネルギー固定価格買取制度を利用して、全量、東北電力に1キロワットあたり42円で売電します。売電収益からは、出資者に20年かけて22万5200円の元本償還と収益が配当されるほか、毎年、収益の2%を福島復興基金として積み立て、その基金は自然エネルギー市民の会と福島県農民連で作る運営委員会で運用されることになっています。

 うれしい“悲鳴”関係者があげる

 関係者がうれしい“悲鳴”をあげたのは、2000万円の出資募集に対して、たった1カ月半の募集期間でその1・5倍、3000万円を上回る応募があったことです。問い合わせは、自然エネルギー市民の会の事務所がある大阪府をはじめ、福島県、東京都、北海道など全国から寄せられ、お断りしなければならなかった出資申し込みが続出しました。「完成を祝う会」に北海道伊達市からフェリーに乗って駆け付けた大倉幸子さんもその一人。「今回はなんと、出資を断られてしまいましたが、これからも福島の応援をしていきたいので、福島県での市民発電所の建設をこれで終わらせず、この次はぜひ出資させてください」と、熱いエールを送っていました。

福島農業の復興に寄与したい

 福島に寄せられたこうした熱い思いは、福島県農民連の会員を大きく励ましています。「初めて市民出資の話を聞いた時は半信半疑だったけど、1・5倍もの応募があったと聞いて、本当にうれしかったですね。福島を忘れず、応援してくれる人がこんなにたくさんいるとは…。しかも福島まで来てくれて、顔を合わせることもできて、励まされました」と、果樹農家の玉根清延さん(福島市)は言います。

 太陽光発電が大規模になると

 「完成を祝う会」で、発電所の地主でもある、福島県北農民連会長の大橋芳啓さんは、「自然エネルギー市民の会の皆さんの協力がなければ、私たちだけではこんな発電所をつくるなんて、考えられませんでした」と感謝の言葉を述べました。

 大橋さんの言うとおり、50キロワットを超える中規模の太陽光発電となると、事業形態や資金調達、法制度や電力会社との調整といった専門的な知識が必要とされます。また、事業計画の立案や、施工にあたっても、実績とノウハウの蓄積がある業者にしてもらう必要がありますが、そうした施工業者は全国を探しても、少ないのが実情です。

 こうした問題に、全国で自然エネルギー普及に取り組んできた経験を生かして、福島県農民連とともに考え、取り組んでくれたのが、自然エネルギー市民の会でした。自然エネルギー市民の会は、「自然エネルギーは地域のもの」、そして「脱原発」という活動理念のもと、2004年から市民・住民による自然エネルギーの普及に取り組んできた市民団体です。

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遊休地を利用して、霊山町に完成した太陽光発電所。周囲には美しい里山風景が広がる

 専務理事で弁護士の早川光俊さんは、「原発事故以降、福島の現状を“私たち自身の問題”ととらえて、できることを模索してきました。この取り組みを寄付ではなく、20年かけて償還するという仕組みにしたのは、福島と継続的にかかわり続ける人を一人でも多く増やしたい、福島の農業の復興に寄与したいという思いがあるからです」と、福島で、農民連と一緒に取り組むことの大切さを話してくれました。

 冒頭の出資者の坂本さんは言います。「高齢の私は今回、娘の名前で出資しました。次回は孫の名前でと思っています。孫は私の生きがい。子どもたちに20万円の出資金とともに原発事故を、福島を語り継いで、手渡していきたいと思ってるんです」。

福島県農民連

エネルギー自立の波を
福島の農村から始めよう

 「りょうぜん市民共同発電所」に隣接して、105キロワットを発電する「福島県北農民連第1発電所」も同時に完成し、売電を開始しました。

 「第1」としたのは、今後、第2、第3の発電所も建設していきたい、という会員みんなの決意が込められています。県連ではこのほかにも二本松市で340キロワット、喜多方市で260キロワット、郡山市で250キロワットの中規模太陽光発電の計画を進めています。

 そのめざすところは、「福島県農民連の会員1400戸分の電気は、自然エネルギーで自給するぞ!」という目標です。一般家庭での1戸あたりの消費電力を4200キロワットすると、全会員分だと、なんと約6メガワットになります。

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太陽光パネルの前に、自然エネルギー市民の会、出資者、草刈りなどの日常管理を担当する県北農民連霊山支部の皆さんらが大集合

 この目標に向けて、中規模発電だけでなく、自宅や倉庫の屋根上を活用した家庭用の太陽光発電の取り組みも始まりました。すでに導入済みという会員も多いため、現在は会員宅での導入状況の調査も進めています。

 県連のよびかけに応えて、倉庫の屋根に10キロワットの太陽光発電を導入した県北農民連の富田久夫さんは、「きっかけは、やはり原発事故への怒りです。母ちゃんと原発に頼らない、自然のエネルギーを使う生活をしたいと話し合ったんです。それと県連が電力の買取価格と、設置費用の返済とをシミュレーションして、今なら経済的にもこんなに得だと教えてくれたのも大きい」と話します。富田さんは自家用車の新調をやめて、太陽光発電を導入し、今年6月から売電を始めました。

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太陽光発電を自宅に導入した富田さん(中央)と県北農民連事務局長の服部崇さん(右)、佐々木さん(左)

 会員分の電気は自給するぞ!

 こうした福島県農民連の自然エネルギーの取り組みは、原発に頼らない再生可能エネルギーへの転換という意義に加えて、これまで電気料金などとして地域外に流出してきたお金を、いかに地域内で循環させ、復興に生かしていくか、という新たな地域循環型経済への挑戦でもあります。福島県連事務局次長の佐々木健洋さんは、「今後は太陽光発電だけでなく、木質バイオマスの活用や住宅の省エネ対策などにも取り組み、福島の農山村からエネルギー自立の波を起こしていきたい」と、話してくれました。

(新聞「農民」2013.10.21付)
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2013年10月

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