9.14
TPPシンポでの発言――
JA全中 小林寛史 農政部長
TPPでアジアの多様な
農業が維持できるのか
TPPはアジア・太平洋地域の貿易を考える交渉です。アジアの農業はきわめて多様で、地形や土壌条件、あるいは気候、人口分布、食生活などに左右されながら、営まれています。貿易交渉でも農業の多様性に着目をしないと、公平・公正なルールができないと考えます。TPPは高い自由化基準での貿易ルール作りであり、農業の多様性が維持できるのか、疑問に思います。
2008年に燃油高騰に端を発して、食糧価格が世界的に高騰しましたが、その時に多くの国々で買い占めや輸出制限、社会不安を経験しました。食糧は人間が健康と生命を維持するのに、どうしても不可欠な物資です。それをTPPのように関税撤廃という単純な手法だけで対処していいのか。食糧問題はもっとていねいに扱わなければ、子子孫孫まで悪影響を及ぼすと思います。
アジア・太平洋地域には関税撤廃の議論の前にやらなければいけないこともたくさんあります。この地域には食糧輸出大国がいくつかありますが、概して輸出に関する貿易ルールは非常に甘い。また、2005年の香港でのWTO閣僚会議で、今年までにあらゆる輸出補助金を廃止することが合意されましたが、アメリカはいまだに輸出補助政策や、途上国への食糧援助という名のもとに過剰処理を行う枠組みを残しています。
最後に、日本は農産物の輸入国ですが、同時に工業製品の輸出国でもあります。われわれ農業者の立場からすれば、工業製品の輸出拡大のためのしわ寄せを全部農業分野に持ってこられるのでは、貿易交渉に政府が関与するメリットはまったくない。農業分野と工業分野を区分けして交渉する重要性も問題提起したいと思います。
(新聞「農民」2013.10.7付)
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