イノシシの食害ストップ!
滋賀・長浜市鳥羽上北町
各地で田畑を荒らす鳥獣被害が深刻です。丹精込めて育て上げた農作物がイノシシ、シカ、サルなどによって食い荒らされ、一夜にして全滅ということも。滋賀県長浜市の鳥羽上北町では農業組合を先頭に集落をあげて獣害被害に立ち上がり、成果を上げています。
集落のみんなが力を出し合って
防護柵つくった
ニュースを発行特技を生かして
「イノシシ、芋畑を食い荒らす」「収穫前の田んぼにイノシシが毎日のように侵入し、稲を踏み荒らし畦を破壊している」…。6、7年前から地域で田畑への獣害が頻発するようになり、最近は毎日のように問題になっていました。
2011年に鳥羽上北町では、自治会総会で防護柵設置委員会をつくり、集落をあげて獣害対策に立ち上がりました。委員長には北村冨生さん(76)=滋賀県農民連会長=が就任。国と市の補助を受け、山沿いに侵入を防ぐ防護柵の設置に着手しました。竹や雑木の刈り払い、ワイヤーメッシュ(金網)や異形鉄筋などの資材の運搬・折り曲げ、塗装などの作業をすべて住民の手で行いました。
作業への参加者を増やすために「防護柵設置ニュース」を発行し、全戸配布を実施しました。作業の状況を伝え、参加者を激励したことが功を奏し、町内68戸のうち非農家を含む約8割が参加しました。
高齢の女性で作業に直接参加できなくても、「申し訳ない、せめてお茶菓子でも」と差し入れと激励にかけつけてくれました。
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イノシシに掘り返された畦=6月3日 |
参加者の創意を尊重し、特技を生かして、ワイヤーメッシュの折り曲げ道具の開発、門扉の作製などをこなしました。こうして「鳥羽上北町の農地と環境を自分たちの手で守ろう」と町民の絆と連帯感が深まっていきました。
町民の8割が共同絆と連帯感を深め
新たな活気が…
高齢者も若者も共にがんばった
ようやく全長1680メートルの防護柵が完成し、さらに翌年は483メートルの柵を設置。2年間で延べ2547時間かけて完成させました。完成祝賀会では、「最初はこんな大きな工事ができるのかと不安もあったが、みんなが力を合わせれば大きな仕事もできる」「高齢者も若者もがんばって絆が強まった」などの感想が口々に語られました。
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力を合わせて急斜面に柵を設置=7月21日 |
ニュースの作成責任者の時田茂さん(65)は「材木店主や溶接の仕事をしていた人など定年組の知恵を結集しました。一人ではできなくても、老いも若きも一緒になって多くの人が集まれば大きな力になります」と振り返ります。
こうした成果が実り、12年は、イノシシ、シカの食害はゼロでした。
しかし、今年に入り、イノシシによる食害が再びみられるようになりました。
柵の未設置地域や、住宅地近くの畑・山林から侵入してくるようになりました。シカやイノシシにとって地域の境界は関係ありません。えさを求めてどんどん移動してきます。
地域の注目集め市内から研修に
今年は鳥羽上南町や隣接する本庄町でも設置工事に着手し、猛暑のなか作業に汗を流します。ニュースで「人手が足りません。短時間でも飛び入り参加をお願いします」と鼓舞しています。
こうした取り組みは、地域の注目を集め、市内の10集落が研修に訪れました。
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工事の完成を喜ぶみなさん。前列左から3人目が北村さん=7月21日 |
JA北びわこは防止柵設置の実習を行い、資材などの供給を始めました。市農業委員会も鳥獣害対策特別部会の活動を活発化させ、北村さんが部会長として陣頭指揮をとります。
関係する3つの町が連携し、侵入経路の調査や作業の連携・共同化を図ることが求められています。まさに「柵作りは地域作り」です。
対策出前講座に担当者が出向き
北村さんは「(1)防護柵を設置して獣を里へ下ろさない(2)捕獲による個体調整(3)野生獣にえさを与えない―の3本柱の実践が大事」だと指摘します。「特別部会は、県・市の獣害対策室とともに集落の被害の点検、獣害対策出前講座にも担当委員が出向いて、集落が連携して対策を進める必要性を提言しています。市と農業共済組合の助成制度を活用して、防護柵・電気柵を設置する集落が増え、共同作業を通じて“絆”を強め、集落に新たな活気が生まれています」と成果を強調します。
(新聞「農民」2013.9.23付)
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