農業保護こそ国益に沿う
TPP問題を機会に米食へ回帰を
日本のTPP参加を懸念する
元 特命全権大使 馬渕睦夫さん
外交を知り尽くした元特命全権大使の馬渕睦夫さんは、日本のTPPへの参加に懸念を示し、稲作の復興と米食への回帰を訴えます。
参加は慎重に
TPPは、自らの主導の下に世界の市場をグローバル化しようとする、アメリカの戦略の一環です。これは、世界の市場を同じルールでまとめ、日本固有の経営方式や経済制度をすべて一つにして、アメリカのスタンダード(基準)で統一してしまおうとするものですから、TPPへの参加は慎重でなければならないと考えます。
TPPは農業だけでなく、あらゆる分野、とりわけ保険や医療などに影響を及ぼします。農業、なかでも稲作は絶対に守らなければなりません。日本は、いくら工業化しても、国柄の基本は農業、稲作です。日本の伝統的な価値観は稲作に基づいています。稲作が崩れるということは、日本的な生活様式と日本人のアイデンティティー(同一性)が壊れてしまうことを意味します。
「農業だけを保護するのはおかしい」と自由貿易論者は主張しますが、農業を保護することこそがもっとも国益に沿ったことだと思います。
固有の文化守る
私は、世界市場を統一化するグローバリストという言葉に対して、自らをナショナリストだと自認しています。これは国粋主義ということではなく、日本固有の文化を守るという意味です。その国に伝わる文化は守るべきであり、その国固有の独自の文化を尊重することが、国同士の友好・親善につながります。
戦後、日本人はGHQ(連合国軍総司令部)により、パン食と減反を強制され、米食と稲作を放棄する政策をとらされてきました。今回、TPPの問題を奇貨として米食を取り戻す機会にしてほしいと考えます。
よく、「TPPは自由貿易協定で、日本は貿易立国だから、参加にメリットがある」と言う人がいますが、日本のGDP(国内総生産)に占める輸出の割合は12、13%にすぎません。日本は決して貿易大国ではないのです。「攻めの農業」と言われますが、輸出は余力があればそれでいいのですが、農産物は工業製品とは違います。農業は本来貿易にはなじみません。地産地消、つまりその土地でとれたものを食べるのが、国民の体に合っており、健康にもいいのです。
自信をもって
日本食は海外からも注目されています。キューバに駐在しているとき、地元の食品研究所の方が、「日本のみそ、しょうゆ、豆腐について聞きたい。日本食は健康にいいと聞いているので、ぜひ病院食として使いたい」と訪ねてきました。
日本の歴史上、最も長く続いている産業は農業です。農家のみなさんが国民の健康や文化を守っているのです。こうしたことをもっと国民に理解してもらう必要があります。農家のみなさんも自信をもって、ものづくりに励んでほしいと思います。
プロフィル
1946年京都府生まれ。2000年〜03年駐キューバ大使、05年〜08年駐ウクライナ兼モルドバ大使。前防衛大学校教授。主な著書に『国難の正体』、『いま本当に伝えたい感動的な「日本」の力』(いずれも総和社)など。
(新聞「農民」2013.7.8付)
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