TPP参加、農業つぶしねらう
アベノミクス農政
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アベノミクスの第3の矢「成長戦略」が決定されました。
「日本再興戦略」と名付けられた「矢」は、「企業が世界一活動しやすい国をつくる」という触れ込み通り、首切りの自由化、「産業の新陳代謝」の名目でリストラや中小企業つぶしをねらうなど、国民に向けられた毒矢そのものです。
農業についても、米価4割引き下げ、大多数の農民からの農地略奪、「企業参入の加速化」を引き金にした「大胆な構造改革」を宣言しています。
TPP「もう議論は十分。行動あるのみ」
安倍首相は5月30日、ノーベル賞受賞者など世界の著名な経済学者を前に「TPPへの交渉参加は、何年にもわたって国内で議論され、国論を二分してきた。しかし、もう議論は十分だ。行動あるのみ。私は、政権について約3カ月で決定を下した」と演説しました(内閣府経済社会総合研究所主催の国際会議)。
これは「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉参加に反対する」「国民の理解を得るための情報が決定的に不足しており、国民的議論は深まっていない」という自民党の総選挙公約を忘れ去ったかのような議論です。
さらに「日本再興戦略」は、「産業界のニーズ」、つまり大企業・財界の要求にもとづいて、(1)貿易のFTA比率を現在の19%から70%に高める、(2)そのため、特に、TPP交渉を積極的に推進し、(3)TPPを東アジアFTA(RCEP)や日中韓FTA、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)のルールづくりの土台にすることを宣言しました。
いずれも自由貿易神話という熱に浮かされたようなTPP推進論であり、TPPに対する国民の強い懸念と批判をまったく無視した暴論です。「議論はまったく不十分」であり、TPP交渉参加撤回という「行動あるのみ」だといわなければなりません。
アメリカの要求を「丸のみ」
この間の日米協議や政府の交渉方針、国会論戦の実態を見れば、安倍政権が譲歩に譲歩を重ねてアメリカの要求を「丸のみ」する一方、「守るべき」を守る意思も能力もないことは明らかです。
その典型は「重要品目」の扱いです。2月の日米首脳会談では、農産物と工業製品(自動車)を日米それぞれの「重要品目」として尊重することで合意したかのように見えました。しかし、アメリカが事前協議で自動車関税を「最も長い期間」維持することを日本にのませたのとは対照的に、日本が農産物で確約を得たものは一つもなく、「すべての物品を対象にする」本交渉に先送りされたのが実態です。
政府方針「農産物“聖域”なしの恐れ」――「守るべき」を守る意思も能力もない
「日本経済新聞」(5月24日)は日本政府のTPP交渉方針をリークしましたが、その中身は恐るべきものです。
(1)農産物の関税撤廃は、従来のFTAより「はるかに高い自由化」が求められ、「撤廃・削減の対象にしない『除外』や、将来の交渉に先送りする『再協議』が認められないおそれがある」。
(2)食の安全は「今後交渉のテーブルに乗る可能性」がある。
(3)郵政や共済は「事業制約を求められる可能性がある」。
(4)地方自治体の公共事業発注などに外資が参入すれば「地方の建設業者の受注が減りかねない」。
4月に衆・参農林水産委員会は「米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物などの農林水産物の重要品目について、引き続き再生産可能となるよう除外または再協議の対象とすること。10年を超える期間をかけた段階的な関税撤廃も含め認めないこと」「それが確保できないと判断した場合は、脱退も辞さないものとすること」を決議しました。
しかし、甘利TPP担当大臣は「守るべき品目を具体的に特定して交渉に入っているわけではない。交渉の中で最終的な結果が出てくる」と、守るべき品目を決めず、すべては交渉結果次第、相手の出方次第だと言い、総選挙公約ばかりか、国会決議までも無視する立場を公言しています(参院予算委員会、5月15日)。
自民党は「守るべきものは守る」を参院選公約にするとしていますが、どう考えても守る意思も能力もないといわざるをえません。参院選投票の2日後にはTPP交渉が始まります。賞味期限が投票2日後に切れる公約には、もうだまされない!
(おわり)
(新聞「農民」2013.6.24付)
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