アメリカでみつかった
GM(遺伝子組み換え)小麦
アメリカ産依存からの脱却を
遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン代表
天笠啓祐さんに聞く
アメリカ・オレゴン州の農場で、商業栽培の認められていない未承認の遺伝子組み換え(以下GM)小麦が5月末に発見され、日本でも同州産小麦の輸入がストップする事態になっています。この事件の背景と、遺伝子組み換え作物とTPPについて、科学ジャーナリストで遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン代表の天笠啓祐さんにお話を聞きました。
GM汚染防げないこと明らか
日本の自給率の低さアメリカ依存問題に
今回の事件のポイントは、8年前に試験栽培が終わったはずのGM小麦が、なぜか農地に自生していて、市場に出ていたということです。やはり生物はコントロールがきかない、試験栽培であってもひとたび屋外で栽培されれば、こうやって汚染が広がっていくという、典型的な実例になったと思います。
もう一つは、小麦だということです。小麦と稲は多くの国で主食とされており、遺伝子組み換えには世界的に反対が強く、商業栽培が承認されたものはありません。2008年にモンサント社が世界で同時に認可申請した時には、日本でも大きな反対運動がおこり、私が団長になって署名を届けたことがありました。こうした反対の強さで、モンサントに除草剤をかけても枯れないという除草剤耐性GM小麦の認可と開発を断念させることができました。
さらに背景としては、日本の小麦の輸入依存度高さの問題もあります。日本の小麦の輸入依存度はおよそ9割で、そのうち6割がアメリカ産。小麦は国が輸入を管理していますから、アメリカ産6割というのは国の政策そのものであるわけです。そういう意味で、小麦の自給率の低さ、アメリカへの依存という問題が、このGM小麦の問題でクローズアップされたと言えると思います。
除草剤耐性につづき
干ばつ耐性開発に注力
日本にGM小麦が…
今回見つかったGM小麦は、除草剤耐性の品種ですが、この小麦には世界で強い反対があったことからモンサントは開発をあきらめ、今は次の遺伝子組み換え品種として、「干ばつ耐性」のGM小麦を開発しています。屋外での試験栽培も2011年からアメリカで始まっています。
モンサントとしては、これから干ばつ耐性小麦でもうけようとしていたところへ、このGM小麦の事件が起こってしまいました。GM作物が自然界ではコントロールできないと明らかになってしまうことで、干ばつ耐性小麦まで市場から拒否されないようにと、モンサントは「誰かが故意に種を持ち出した」「散発的でこの件かぎりだ」などと発表して、事態の収拾に躍起になっています。
しかしGM小麦はもっと広がっている可能性もあります。遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンは農民連食品分析センターとともにGMナタネの自生調査をしていますが、輸送の過程ではどこでも種がこぼれ落ちる可能性があることが明らかになっています。GM小麦もしかりです。自生の状況は調べてみなければわかりませんが、輸入依存度の高い日本にもGM小麦がすでに入ってきている可能性があります。
もうけを最優先するモンサントGM技術
モンサントが開発している干ばつ耐性品種は、「本当に乾燥に耐えられる作物」ではなく、じつは「干ばつになっても経済性が落ちない」作物です。「経済性が落ちない」とはどういうことかというと、タバコがいい例ですが、植物は乾燥したら落葉して本体は生き残ろうとするのが本来の性質ですが、それではもうかりませんから、その落葉する仕組みに人間が介入して、落葉させまい、ということを目的にした技術なのです。小麦も同様の技術開発であり、かえって植物本来の生命力を弱めてしまい、本当に人類を干ばつから救うことになるかというと、ならない可能性があります。
TPPは食の安全基準危うくする
市場席巻許さぬ反対運動を
国境越えて自由に振る舞えるために
TPPは、今回のGM小麦のように「未承認」ということが問題にならないように、安全基準そのものをグローバルに引き下げるのが狙いだと言えると思います。非関税障壁にあたる安全性や表示、環境影響評価などを簡素化し、モンサントのような多国籍企業が国の統治を超えて世界の支配者となって、いかに自由に振る舞えるようにするか、というのがTPPのような貿易交渉です。
小麦や稲は市民運動でGM品種の商業化を止めてきましたが、TPPに入れば、こうした市民の声で安全基準を守るということも難しくなる可能性が大いにあります。
アメリカ産ビートは95%がGM品種に
安全基準の引き下げという以外の懸念もあります。アメリカではいま、ビートとアルファルファという牧草にGM栽培が広がっていて、アメリカ産ビートでは95%がGM品種になっています。こういうなかで日本のビートとサトウキビ生産を守らないと、たいへんなことになってしまいます。
というのも、じつは日本ではいま、加工食品などの甘味料はほとんどが砂糖ではなく、果糖ブドウ糖液糖のような「異性化糖」とよばれる糖類が使われていて、その原料は輸入トウモロコシ、つまりGMコーンです。GMコーンが原料の異性化糖が激増しているうえに、TPPで国内のビートやサトウキビ生産が打撃を受ければ、今度はアメリカ産のGMビートを輸入しなければならなくなり、そうなると日本の「甘味」はほとんど遺伝子組み換えになってしまう、ということ予測されるのです。
こうしたGM食品の市場席巻を許さないためにも、食の安全基準を守るためにも、TPP参加を許してはならないと思います。
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天笠さんが共同代表を務める日本消費者連盟は6月4日、林農水相あてに「アメリカからの小麦輸入全面停止を求めます」とする要請書を提出しました。
(新聞「農民」2013.6.24付)
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