TPP参加、農業つぶしねらう
アベノミクス農政
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安倍首相が「成長戦略」第3弾を発表しましたが、株価が大幅に下がるなど、不評です。日本経済新聞も「聞こえのいい数値目標ばかりが踊り、手段や実効性が定かではない」と酷評するほどです(6月6日社説)。
「所得倍増」計画の賞味期限は参院選まで?
その見本が「農業・農村所得倍増」です。今から50年以上前、池田内閣が「所得倍増」を唱えたのをまね、最初は「5割増」としていたのを、数字は大きい方がいいというので「倍増」にしたという事情を、朝日新聞(4月24日)は次のように報道しています。
「石破茂幹事長は、当初案では『5割増』としていたのを『倍増』に変えるよう指示。ただ、『農家は信じてくれない』(農林族議員)との慎重論も強まり、倍増を目指すという意味合いを強めて『目標』を加えた。農林水産省内にも『聞こえはいいが、実現は難しい』(幹部)との意見が強い」
つまり、倍増は「目標」であって、実現しなくても平気の平左、賞味期限は参議院選挙までもてばいいという程度のものにすぎません。
この「所得倍増」計画は“オレオレ詐欺”のようなものです。
第1に、林農相は「農家個人ではなく、農業・農村全体の所得」だといい、自民党は「地域や担い手の所得」といっているように、誰の所得が「倍増」するのか不明です。
第2に、倍増の根拠は、輸出倍増と「6次産業」の市場規模を1兆円から10兆円にするというものですが、前回見たように、国産農産物の輸出はわずか1千億円で、農産物生産額8・2兆円の1・2%にすぎません。
生産に加えて加工・販売の付加価値も取り込むのが6次産業化ですが、最近目立つのは大手流通・加工企業が川下から生産を巻き込む「産業型6次産業化」です。10兆円といっても、農業・食料関連産業全体に比べるとほんのわずかであり、しかも大手企業が6次産業化の利益を独り占めしてしまい、農家に回らない可能性大です。
米価を4割下げて「所得倍増」?
第3に、産業競争力会議は米生産コスト、つまり米価を4割引き下げて1俵(60キロ)9000円台にすること、経済同友会は7000円台にすることを要求しています。これでは「所得倍増」どころではありません。さらに、TPP参加によって米をはじめとする輸入農産物が押し寄せれば、所得も農家経営も壊滅します。
第4に、それでも所得が増えるとすれば、全体としてガタ減りした所得をごく少数の農家で分け合う以外に方法はありません。「成長戦略」は農地の80%を担い手に集中させること、自民党も「基幹的農業従事者1人が平均10ヘクタール耕作する」ことを目標にするとしています。大企業の農業参入を含め、大多数の農家を追い出すことを前提にした「所得倍増」とは、農村住民の所得壊滅戦略にほかなりません。
(つづく)
(新聞「農民」2013.6.17付)
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