「農民」記事データベース20130610-1072-17

岩手 なたねシリーズ

あぶらを搾る
(2)


搾油工房の誕生のときから

 ふるさとに戻り、農業をするぞ! と意気込んでUターンした私は理想と現実の間で苦悩することとなりました。初めての農業、親の背中を見てわかったつもりになっていただけで知らないことばかり、それでもがむしゃらに汗をかきました。

 しかし、今まで両親2人が食べていた収入に私が加わり、見込んだほどの収入もあげられず、何をしに帰ってきたのか、こんなはずじゃなかったと考えた私は、農閑期に深夜のコンビニのアルバイトをして暮らしていました。

 そんな時です。地元で栽培が増えてきていたナタネを「県外の業者に加工を委託せず地元に搾油工房を建設したい。ぜひそこで農閑期の間でかまわないので手を貸してくれないか」と工房設立の発起人から声をかけていただいたのです。

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薪釜焙煎(ばいせん)でナタネ油の豊かな風味が生まれます。左は筆者

 はじめはいいアルバイト先ができたという位の感覚しかなかった私でしたが、地元のナタネ生産者の思いや設立に携わった方々の思いを知るにつれて、こんな軽い気持ちではみなさんの気持ちに応えることはできない、もっと真剣に取り組まないといけないと考えるようになっていきました。

 ナタネ栽培は当時、一関市では年々、倍々で生産量が増えてきていました。もちろん、当初農閑期だけのアルバイトで済んでいた仕事でしたが、このままでは本業に影響がでるのではないか、そんな不安と新しい産業が生まれる瞬間にわくわく感をもっていたことを思い出します。

 当時の役員とは農繁期になっても毎週のように会議を行いました。商品の品質の問題や、油の注文状況、在庫の問題、資金繰りの問題等、数え上げるときりがないくらいいろいろ話し合いました。そんな期間を4年ほど過ごし、「社長は若いあなたがやりなさい、サポートはするから」と取締役ではなく、株主として先輩方に支援をいただき、2009年に法人化して株式会社として再スタートをきったのです。

 いつかこのバトンを次の世代につなぐことが恩返しになるのではと今思っています。

(つづく)
(工房地あぶら 小野寺伸吾)

(新聞「農民」2013.6.10付)
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2013年6月

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