「農民」記事データベース20130520-1069-01

配合飼料価格 史上最高の高騰続く
TPP先取り 30カ月齢以下に緩和

安全・安心の畜産へのこだわり
消費者にどう伝えていけるか

荒波のなか模索つづく畜産農家

 昨年アメリカを襲った歴史的干ばつや“アベノミクス”による円安の影響で、配合飼料価格が史上最高を記録する高騰を続けています。加えて、2月からはBSE対策が緩和され、輸入牛肉の規制を30カ月齢以下とする措置が始まっています。千葉農民連に団体加盟する千葉北部酪農協の常務理事で、肉牛農家の山本純治さんと、専務理事の西川聡さんに話を聞きました。


さらなるBSE緩和により
畜産農家の経営が危機に

千葉北部酪農協

 今後は生産費に見合った価格に

 「TPPを推進しようという政治家に、日本の農業をどうしようと思っているのか、本当に質問してみたい。大規模化すればもっと利益が上がると、本気で考えているんでしょうか」――静かな口調で、しかし万感の思いをこめて話す山本さんは、千葉県佐倉市でホルスタイン200頭を飼う肥育農家です。

 「2008年の飼料高騰以降、多くの肉牛農家が、何年もかけて蓄積してきたもの――預貯金、保険や共済の積立金など――を取り崩しながらやってきましたが、それももう限界です。今後は生産費に見合った価格でないと、いよいよたいへんなことになる」と山本さんは危機感を込めます。

 いま、肥育農家の生産経費は、そのおよそ3分の2を飼料代が占めます。山本さんの場合、肥育もと牛が約12万円、飼料代が約22万5000円、他に電気代や重機の燃料など諸経費を加えると、1頭あたり36万円弱かかります。しかし牛の販売価格は30万円ほど。山本さんだけでなく、多くの肥育農家が販売価格だけでは持ち出しになり、新マルキン事業とよばれる補てん金制度でなんとか経営を維持しているのが実態です。

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牛舎の前に立つ山本さん

 農家の努力も収入向上には…

 「でも80年代の牛肉自由化以前は、もと牛代が3分の1、飼料代が3分の1、利益が3分の1だった時代もあったんですよ」と山本さんは言います。西川さんも「自由化前の価格は1キロ1000円を超えていましたが、いまは700円台。農家の努力で生産効率が上がって、いま出荷される牛は全体に大きくなっているのですが、その努力は収入の向上にはつながらずに、価格下落と経費の増大に消えてしまっているね」と話します。

 千葉県で貿易自由化の影響がより深刻なかたちで現れているのが、養豚業です。山本さんが牛を出荷している旭市のと畜場では豚も数多くと畜していますが、アメリカなどの輸入豚肉の増大とともに地域内の養豚農家が激減し、このままではと畜場の経営すら成り立たなくなることが危ぐされているのです。「2月からアメリカ産牛肉の輸入規制も緩和され、そのうち牛肉にも豚と同様の影響が表れるのではと、とても心配しています」と言う西川さん。

 TPPの参加で県内酪農は壊滅

 千葉北部酪農協は、TPP参加にも反対を表明しています。いま日本で供給される牛肉の21%は、ホルスタインの去勢雄牛や和牛との交雑種(F1)が占めています。「農協の牛肉事業も酪農が母体です。先日、TPPに参加した場合、“県内の酪農は壊滅”という県の試算が報道されましたが、酪農が立ち行かなくなってしまったら、牛乳生産だけでなく肉牛も危機に陥ってしまいます。牛肉市場を、ごく少数の高級和牛と輸入牛肉だけにしてしまっていいのか」と西川さんは疑問を投げかけます。

 千葉北部酪農のブランド「八千代牛乳」は、生協と結んだ牛乳産直の草分けとして知られ、今でも遺伝子組み換えでない飼料と、HTST製法(75℃15秒間殺菌)を守っています。肉牛生産ではモネンシンという抗生剤を使わずに育てています。「私たちの安全、安心なもの作りへのこだわりを、どうしたら消費者にもっと伝えていけるのか」――荒波のなかの模索が続いています。

(新聞「農民」2013.5.20付)
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2013年5月

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