エサ代高騰で借金ふくらむ
生産費増分を乳価上げて
千葉・睦沢町
酪農家 中村種良さん
昨年、アメリカを襲った記録的干ばつの影響で、輸入穀物を主体とした配合飼料価格が、史上最高を記録しています。2006年10月に4万4300円だった配合飼料価格はいま6万6450円。つまり1・5倍にまで上がっているのです。生産コストの急増に苦しむ酪農家に、安倍政権が推し進める経済政策=「アベノミクス」が、さらに追い打ちをかけています。円安によって牧草などの輸入粗飼料の価格も軒並み高騰。日本の畜産はいま、かつてない苦境に立たされています。
「エサ代が高騰して、牛乳代金が農協の口座に入っても、エサ代や資材代を支払うと現金が手元に全く残らない酪農家がいっぱいいる。牛乳代金では日々の生産経費がまかなえなくて借金が膨らんでいくのが実態」――千葉県睦沢町で搾乳牛35頭を飼養する中村種良さんは、酪農家の危機的な現状をこう話します。
中村さん自身は、近隣の酪農家と入札組合をつくって飼料を共同購入したり、自給飼料組合を結成して転作水田や遊休農地を活用して自給牧草をつくったりすることで、なんとか生産経費を抑えることができています。
「それでも、昨年度の年収は経営外収入を含めても100万円ほど。所得税も払えなかったんですよ。本格的にエサが高騰している今年度はもっと厳しいでしょう。農協から全てのエサや資材を購入している酪農家は、もっと生産経費がかかっているはずだから、1キロあたり95円という今の乳価では完全に赤字経営になってしまいます」と、中村さんは言います。
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人なつっこい中村さんの牛たち |
戸数でみると千葉県は全国でも4番目という酪農県です。しかし2000年に約1500戸だった県内の酪農家は、いま870戸に激減。中村さんは、「夫婦2人で休みなく働いても、コンビニのアルバイト代1人分にも満たない収入では、酪農家はどんどん離農していってしまう。生産経費の増加分だけでも乳価引き上げが絶対に必要です」と力をこめます。
農村地域全体の発展にも直結
乳価の引き上げは、酪農家の暮らしと経営だけでなく、国産飼料の増産や農村地域全体の発展にも直結する問題です。
中村さんが町内の5人の酪農家で運営している自給飼料組合では、耕畜連携などの助成金制度を最大限活用し、現時点では農家負担なく粗飼料生産ができています。しかし全量を自給するには至っておらず、もっと増産しようとすれば、耕種農家が飼料作物をつくり、流通させる仕組みが必要です。生産費を償う乳価にすることは、こうした負担を支えることにもつながっているのです。
「自給飼料組合も、エサの入札組合も、一人でも仲間が減ったら、存続はたいへんです。エサ屋さんも、農機具屋さんも、酪農には不可欠な獣医さんも、これ以上、地域から酪農家が減ったら、経営が維持できません」
牛乳は本来、きわめて鮮度が重要な生鮮食品です。「千葉県の酪農には、消費者の近くで生産しているからこそ、果たさなければならない役割があると思っています。日本には多様な酪農のやり方があって、輸入飼料の高騰に対処する上でも、自給飼料を増産する上でも、乳価の引き上げがその下支えになっていくんです」と、中村さんは強調しました。
(新聞「農民」2013.5.6付)
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