TPP日米「事前協議」合意
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アメリカ 日本脅し分捕り成果ズラリ
日本 要求“丸のみ”隠すのに懸命
マスコミからの批判も噴出
TPP交渉に参加するアメリカなど11カ国は4月20日、インドネシアのスラバヤで閣僚級会合を開き、日本の交渉参加を承認しました。しかし、日本は日米事前協議の合意文書で自動車分野について大幅に譲歩し、たとえ交渉に参加しても、農林水産分野の重要5品目などの「聖域」確保はきわめて困難です。
日本の交渉参加承認
「TPP危うい国益」「(農産物5品目のうち)1品目だけでもとれる見通しは立っていない。聖域などまったくない」(在米日本政府関係者、朝日4月13日)、「『見切り発車』をして滑り出した車両が、方向も定まらぬまま加速し始めた」(琉球新報4月13日)――安倍政権がアメリカの要求を丸のみした「事前協議」合意後、マスコミからの批判が噴出しています。
「合意」後、日米両政府が公表した文書はきわめて対照的です。アメリカ側は日本を脅しあげて分捕った成果をズラリと列挙しているのに対し、日本側はアメリカの要求を丸のみしたことを隠すことに汲々(きゅうきゅう)としています。
○アメリカの「重要品目」
×日本の「重要品目」
その典型は「重要品目」の扱いです。2月の日米首脳会談では、農産物と工業製品(自動車)を日米それぞれの「重要品目」として尊重することで合意したかのようにみえました。今回の日本側文書でも、これを繰り返していますが、米側文書はまったく無視。
実際に、アメリカの「重要品目」である自動車の保護要求に対しては至れり尽くせり。アメリカは、交渉開始前に「入場料」をたっぷりせしめました。(1)自動車にかける関税(乗用車2・5%、トラック25%)は「最も長い期間をかけて引き下げ、かつ最大限に後ろ倒しされる」「その扱いは米韓FTAを上回る」、(2)自動車の環境性能・安全基準をアメリカ基準に「調和」させる、(3)アメリカ車に対して「差別的な」軽自動車に対する優遇税制の見直しについて交渉するなどなど。このうち(2)(3)について、日本側文書は内容を明示していません。
農産物の「聖域」扱いを黙殺するアメリカ
一方、日本の農産物の「聖域」扱いについては、米側文書はまったく黙殺。それどころか「日本は2月22日の共同声明において、すべての物品を交渉の対象にすること、高水準で包括的な協定を実現することを明確にした」と書いています。要するに「農産物と自動車のバーター(取引)」(閣僚)どころか、農産物で確約を得たものは一つもなく、「すべての物品を対象にする」本交渉に先送りされたのです。
だからこそ、米、小麦、牛肉、豚肉、乳製品などアメリカの農産物業界団体は日米事前協議を大歓迎する声明を次々に発表しています。「米国産米の市場拡大にとって、ウルグアイラウンド以来、最善の機会」(全米コメ連合会)、「めまいがするほどうれしい」(全米豚肉生産者協議会)。
アメリカに加えて、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどは、いっせいに「すべての品目を交渉のテーブルに載せる」ことを要求し、農産物の完全自由化を要求する包囲網をつくる可能性もあります。
「これだけで済むとは思うなよ」
食の安全、政府調達、知的財産権、保険などの分野でも、アメリカの要求は居丈高です。
食品添加物の大幅緩和、地方自治体を含む公共事業などの入札への外国企業の参入、ジェネリック医薬品に対する規制、アメリカの保険会社が牛耳っている医療・がん保険の独占などをゴリ押しするかまえです。これらについても、日本側文書には明確な記述がありません。
さらに、米側文書の最後には、非関税障壁(規制緩和)について「両国の合意があれば、これらの問題以外にも付け加えることができる」という一文があります。「日米が対等に『合意』などできるわけがないので、これは米国側からの『脅し』である。『これだけで済むとは思うなよ』と、最後に念押しまでされているのだ」(内田聖子・アジア太平洋資料センター事務局長ブログ)。
TPP反対の世論を大きく
“一つ譲れば、もう一つよこせ。もう一つ譲れば、根こそぎよこせ”――これがアメリカの交渉戦略です。
安倍首相は、惨憺(さんたん)たる譲歩の末に「国会で責められても『米国に譲ったわけではない』と言い張るしかない」ことを茂木経済産業大臣と誓い合い、さらに「日本主導でTPPのルール作りを進め、国益を守りたい」と強弁しました。とんでもない空言であり、「アベノミクス」ならぬ「アベノリスク(危険)」は明々白々です。
首相の決めゼリフは「守るべきものは守る」「自民党には、民主党政権とは違う『強い交渉力』がある」ですが、交渉力など皆無であることが浮き彫りになったことを地方紙(社説)は厳しく指摘しています。
「交渉力そのものにも疑問符が付く……首相が民主党政権とは違うとして胸を張った『強い交渉力』の第1ラウンドが、この結果だ」(河北新報4月17日)、「政府は『安全でない基準を認めることはない』というが、数々の日米交渉の実際を見れば噴飯ものだ。米軍基地を見ても、国民の安全は常にないがしろではないか」(琉球新報4月13日)
そして、いくつかの地方紙が一致して指摘しているのは「このペースでずるずる押し切られるようなら、日本国内で交渉撤退論が強まってくるのは必至だろう」(中国新聞4月14日)、「本交渉でどうしても国益を守れないというのなら、脱退という選択肢も視野に入れておかねばなるまい」(宮崎日々4月17日)というTPP反対の呼びかけです。
これで潮目が変わったというほど甘くはありませんが、たたかいはこれからです。
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東京・荒川区 為我井雅子 |
(新聞「農民」2013.4.29付)
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