「農民」記事データベース20130401-1063-01

TPPに入れば日本経済はバラ色?

実態は、ウソ八百の“真っ青”試算


 安倍首相のTPP交渉参加表明後に公表された「政府統一試算」。10年後に国内総生産(GDP)が3・2兆円(0・66%)増える一方、農林水産物の生産額は3兆円(42%)減ると計算しています。

 10年を待たずにドンドン生産減

 日本のGDPは約500兆円。ピンときませんので、家計にたとえると――。年収500万円の家計が10年後にやっと503万2000円に増えるという程度のもの。年間3200円弱、サラリーマンが一晩、安飲み屋で飲むのがやっとという程度の“賃上げ”です。一方、農産物の生産減は10年を待たずにドンドン落ち込みます。

 「単純に年率で考えれば、GDPのわずか0・066%ということとなる。これは『誤差の範囲』と言ってもよい」(元大蔵官僚で一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏)。TPPは「アベノミクス」の3本目の矢「成長戦略」の主な手段のはず。ところが「TPPはGDPを増加させる効果はほとんどない」(野口氏)。

 「成長戦略」の眼目は、貿易自由化で輸出をジャンジャン増やすことのはず。ところが、試算では、輸出2・6兆円増に対し、輸入は2・9兆円増(その大部分は農林水産物)。貿易赤字は10年後も続くことになります。

 米は68%残る?自給率27%に!

 菅政権時代の2010年10月の試算では、米は90%が外米に置き換わって10%しか残らず、食料自給率は40%から13%に落ち込むとされていました。ところが、今回の試算では、小麦、砂糖、でん粉原料用ジャガイモ・サツマイモがほぼ壊滅することは前の試算と共通するものの、米は32%減、食料自給率の落ち込みも27%とされました。

 もちろん、これ自体が重大な打撃であり、農漁業生産が3兆円減っても、GDPが3・2兆円増えるからいいなどというのは、「国益」の名に値しないことは明白です。

 政府の試算には重要なゴマカシ

 さらに試算には、いくつかの重大なゴマカシがあります。

 第1に、米については、中国やタイがTPPに入っておらず、アメリカやベトナムのジャポニカ米への転換が簡単に進まないから、打撃は比較的小さいといわんばかりです。しかし、専門家は、日本がTPPに入ればアメリカから数百万トン、ベトナムから100万トン、さらにオーストラリアからも輸入が増えると予測しています(伊東正一・九州大学大学院教授)。

 第2に、10年の試算で示していた関連産業への影響も、現在の完全失業者数に匹敵する350万人もの雇用減はまったく黙殺されています。

 第3に、米や畑作物、酪農や牛肉、豚肉などの生産が大幅に減り、野菜や果実の生産が拡大した場合の影響については、検討した形跡すらありません。

 全体として“TPP推進派の絵空事”試算、バラ色どころか、農家も国民も真っ青のデタラメ試算だといわなければなりません。

(新聞「農民」2013.4.1付)
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2013年4月

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