「農民」記事データベース20130325-1062-01

TPP交渉への参加表明に抗議し、
撤回を要求する

2013年3月15日
農民運動全国連合会会長 白石淳一


 一、安倍首相は本日、国民の強い反対を黙殺し、公約を裏切ってTPP交渉への参加を表明した。安倍首相は、あたかも交渉で国益を守れるかのように強調したが、「守るべきものを守れない」のがTPPである。「日本を取り戻す」どころか「日本を売り渡す」安倍政権の参加表明に強い怒りをこめて抗議し、撤回を要求する。

 一、安倍首相は「聖域なき関税撤廃が前提でないことが明確になった」というが、これは全くの欺まんである。日米首脳会談で発表された「日米共同声明」は、「TPPのアウトライン」に示された「高い水準の協定を達成する」ことを日本に求めている。これは、関税と非関税障壁の全面的な撤廃をアメリカに誓約したことにほかならない。それは、アメリカ政府が「共同声明」後に農業界に「日本は全ての農産物関税を撤廃するというアメリカの目的を理解した」と説明し、業界が歓迎していると伝えられていることからも明らかである。

 TPPは自民党自身が総選挙で掲げざるを得なかったように、医療や食の安全、官公需発注、ISD条項など多岐に及ぶが、これらは何ら守られる保障がない。アメリカと強欲な多国籍企業のもうけのためのルールが押し付けられることは明白である。

 一、さらに重大なのは、新たに参加する国には対等に交渉する権利が与えられていないことである。2012年12月にTPP交渉に新たに参加したメキシコとカナダは(1)事前に交渉テキストを見ることも、(2)すでに確定した項目に対する修正を求めることも認められず、新たな提案もできない、(3)将来、ある交渉分野について9カ国が合意した場合、その合意に従う、(4)交渉を打ち切る権利を放棄する――という条件を誓約して参加が認められた。この問題を国会で追及された安倍首相は、「判然としない」「ぼやっとしている」とごまかしたが、否定できなかった。3月4日から13日までシンガポールで行われた第16回TPP交渉の席で、アメリカの貿易担当官は同様の条件で「日本と合意している」と発言したことも明らかになっている。

 自民党は、農産物5品目や国民皆保険制度などの聖域確保を優先し、それができない場合はTPP交渉から脱退も辞さないと決議し、安倍首相の参加表明を後押ししたが、聖域を守ることも、脱退することもできるはずがない。公約違反をごまかすためのものでしかない。「国益」を主張する機会さえ与えられず、アメリカなど9カ国の「合意」が押し付けられるだけである。

 一、政府は、TPP参加表明とあわせて影響試算を発表した。試算によれば、輸出拡大などで10年後に国内総生産(GDP)を0・66%押し上げ、3兆2000億円の経済効果があるとし、米など主要な農産品の関税撤廃で農業生産額が3兆円減少するとしている。試算の内容は信ぴょう性が乏しいといわなければならないが、農業生産が壊滅的影響を受けることだけは明白であり、“農業生産が破壊されても輸出が増えて相殺されるからかまわない”という農業犠牲の立場が貫かれていることは絶対に容認できない。

 一、安倍首相はTPP交渉参加を表明したが、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど、他のTPP交渉参加国との2国間協議と承認も残されている。仮に交渉が妥結し、協定がまとまったとしても国会での批准手続きも必要である。

 たたかいはこれからである。農民連は、TPP参加反対の一致点での共同を草の根をかきわけて広げに広げ、断固阻止するために奮闘するものである。

(新聞「農民」2013.3.25付)
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2013年3月

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