死神の白い城
前 田 新
福島第一原発の事故の
あった日から二年が過ぎた
もうマスコミは
あの出来事は過去の話として忘れ
原発ゼロの見直しを
わざわざアメリカにまでいって
首相が固く約束してきたことを
さも当然のこととして報道している
国民の七割が望んでいることとは
真逆のことをしても
だれも不思議とは思わないのか
あの日
ふるさとを追われた十六万人の人たち
そこを占領するのは死神の城
その原子炉には いまも高線量のために
ひとが立ち入ることすらできない
廃炉が終了するまでは四十年
ふるさとへの帰還の断念も
「致し方ない」と大臣は宣告する
絶望のなかでふるさとを後にする若者たち
望郷の想いを胸にひっそりと
死んでゆく老人たち
それは避難民とよばれる棄民の姿だ
二年が過ぎたいまになって
避難の目安とされた年間二〇ミリシーベルト
除染の目標である年間一ミリシーベルト
その安全基準の根拠を示せと
知事や首長たちは国に問う
それすらも明らかにされないままに
除染はすすめられているのだ
明らかになったのは除染をしても
安全基準に達するということでは
ないということだ
怒りながら 泣きながらの
必死の努力にもかかわらず
ふるさとを追われたひとたちと
汚染された県土の四分の一の地域に
希望の光りはまだなにも射してこない
死神の白い城に 暗躍する闇だけが映る
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(新聞「農民」2013.3.11付)
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