今年の「伝統食列車」――
初冬の鯖街道を湖国・滋賀へ
地域づくりの話を聞いて
住職から反原発の訴え…
アメリカの農産物を売り込むために日本中を走った「アメリカン・トレイン」に対抗して、日本の大地で育まれた“食の文化”をつなぐ「伝統食列車」が出発してから20年。今年の伝統食列車第21号は、11月30日から12月2日まで「初冬の鯖(さば)街道を湖国・滋賀へ、原発なくし自然生態系に依拠した地域づくり、食と農再生へ」をテーマに、全国から約70人の参加者を乗せて走りました。
(日本の伝統食を考える会 浅岡元子)
鯖ずし・「郷の恵」弁当
特色あふれる郷土料理
感謝・感激の連続
放射能から子ども守るのは国の責任
京都を出発したバスは、若狭鯖街道の宿場町・熊川宿でほたるの育成や熊川葛(くず)の復活に奮闘する地域づくりの話を聞き、福井・小浜市の明通寺へ。反原発を訴えてきた住職・中嶌哲演(なかじま・てつえん)さんは「戦後の原発推進政策は戦争政策に匹敵する国策であった。放射能から子どもを守るのは国の責任。今後、放射能汚染と向き合わざるをえないが、何としても子どもを救うことが第一です」と力を込めました。
|
ボランティア・ガイドの案内で、熊川宿を散策する参加者 |
伝統食列車の楽しみは、何といっても郷土料理をいただくこと。若狭から京都へ運ばれた魚介類のなかでも「鯖」が主流であったことからその名がついた鯖街道。滋賀・旧朽木(くつき)村では、「鯖ずし」「鯖のなれずし」「鯖そうめん」と、鯖づくしの郷土料理の数々。高島市では、発酵食文化を生かした「郷の恵」弁当や、万木かぶら・宮野ねぎなど集落で種を受け継いだ野菜を使った郷土料理、そして正真正銘の琵琶湖産の湖漁料理と、地元の特色あふれる郷土料理に参加者は感激の連続でした。
|
地元の女性グループ・丸八百貨店「むつみ会」が作った鯖づくしの郷土料理 |
“地域・日本のあり方”を考える
地域守ってこそ伝統食は守れる
伝統食列車のもう一つのメーンはシンポジウム。コーディネーターの坂口正明さん(全国食健連事務局長)が、「地域・日本のあり方を今後どうするかをともに考える場にしよう」と呼びかけました。
元びわこ高島観光協会の澤田龍治さんは、「高齢化率34%の朽木で二十数年間朝市を続けてきたのは、高齢者に生きがいを持ってほしかったから。地域を守ってこそ伝統食は守れる。消費者の支えは不可欠」と述べました。
針畑で山菜摘み農園「じゅうべえ」を営む西澤恵美子さんは、「嫁いだころは美しい自然だった。荒れていく山や田んぼを見ながら自分にできることはないかと探し、自分が信じるところを実行している」と発言。福井・おおい町の議員、猿橋巧さんは、「6割近くが原発関連の仕事をしている地元で反対の声が出せない状況だったが、3・11以後危険なところで働きたくないという声が増えている。この声に応える行政にしていかなければ」と報告しました。
米づくり農家がTPPで廃業に
滋賀食健連の内田康雄さんは、「琵琶湖に注ぐ水の3分の1を生みだす“びわ湖源流の郷たかしま”は、森林面積が9割を占めている。TPPは米づくり農家を廃業に追い込み、中山間地の過疎化はますます進み、『びわ湖源流の郷』構想の土台は崩壊してしまう」と批判しました。
長野・栄村の前村長、高橋彦芳さんは、「住民の自治は人間の根っこである」と言い、「村の力量を高めていくには都市と農村の交流が大事だ。原発もTPPも、地域が広くつながれば問題点が明らかになり、国の方向を変える力になるのではないか」と訴えました。
|
鮒ずしのつくり方を説明する松沢さん |
“湖守るのは山”森づくりの漁民
最終日には、鮒(ふな)ずし作りを見学し、「びわ湖の水と地域の環境を守る会」の代表で、50年漁師をしてきた松沢松治さんから話を聞きました。松沢さんは「高度経済成長と琵琶湖総合開発で琵琶湖の環境が大きく変わり、固有の魚が激減した。壊した自然の再生は半世紀経っても難しいが、琵琶湖の水を守るのは山だ」と言い、漁民が森づくりに取り組んでいることを紹介しました。
(新聞「農民」2012.12.24付)
|