「農民」記事データベース20121217-1050-09

旬の味


 以前、この地方には多くの和牛が飼育され、農耕に使われていた。子どものころは牛のえさ草刈りをさせられ、畦(あぜ)の草はきれいになくなった▼牛の手入れに毛櫛(ぐし)金櫛(ぐし)を使うのも日課で、夏の夕方には涼しくなると草を食べさせるために牛を連れて歩いた。日当たりのよい玄関横に牛舎があり、牛が首を出してえさを食べていた。牛は家族の一員のごとく、大事にされていたものだ▼囲炉裏(いろり)を囲んで、父と家畜商との長い商談が終わった。3歳に成長した雌牛が売られていく日、祖母は白米ご飯を自分の茶碗(わん)いっぱいに盛って食べさせ、念入りに牛の手入れもしてあげた。夜遅く、家畜商に連れられて行く。その明かりが見えなくなるまで、手を合わせて家族全員で見送ると、目に涙があふれた。「大事にしてもらえよ」。3年ほど一緒に暮らして、農耕や山仕事をしてくれた牛との別れは、今も悲しく忘れられない▼しかし、モウモウと鳴く牛の姿は機械化で見られなくなり、村は過疎となった。牛との生活がなつかしい。

(力)

(新聞「農民」2012.12.17付)
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2012年12月

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