「農民」記事データベース20121022-1042-01

ドキュメンタリー映画
よみがえりのレシピ

監督の渡辺 智史さんに聞く

関連/映画のあらすじ
  /自家採種した種は“宝物”

 山形県を舞台に、在来作物とそれを守り伝える農家の人々、そしてその野菜をおいしく料理するシェフに光を当てたドキュメンタリー映画「よみがえりのレシピ」が完成し、各地で上映が始まっています。弱冠31歳という新進気鋭の監督、渡辺智史さんに、制作への思いや映画のみどころなどを聞きました。


渡辺智史さんのプロフィル

 1981年生まれ。山形県鶴岡市出身。東北芸術工科大学在学中に東北文化研究センターの民俗映像の制作に参加。03年山形県村山市の茅葺集落の1年を追う。上京後、イメージフォーラム付属映像研究所に通いながら、映像制作を開始。08年フリーで活動開始。「湯の里ひじおり―学校のある最後の1年」を監督。


在来作物が人をつなぎ
地域の食文化を豊かに

 効率一辺倒の社会でいいのか

画像 大学時代から民俗学に興味があって、失われていく文化を記録するということにライフワークとして取り組んでいます。

 種に注目した映画を撮ろうと思ったのは、ちょうど企画を考えていた2007年ころに、日本で遺伝子組み換えを扱った海外映画が数多く紹介されたことと、サブプライムローンの破たんなどがあって、大企業や多国籍企業が市場を牛耳るような社会に対して、僕も「ノー」と言いたい、という思いがあったからです。

 でも、多国籍企業が特許を独占する遺伝子組み換えに反対するにしても、映画の作り手として、違うスタンスがほしい。それで、「お金にならない」イコール「価値のないもの」とみなされて、地域から姿を消しつつある在来作物に光をあてることで、そういう社会や農業でいいのか、効率化一辺倒でいいのかと、問いかける映画を作りたいと思ったのです。

 在来作物は、効率化とは対極にあって、栽培も自家採種も手間暇かけないと守れない弱い存在です。でも、だからこそ、次世代に守り伝えるには、多くの人がかかわることが必要になって、在来作物を通して、世代を超えた地域の人々、料理人、研究者、そして生産者や消費者など、さまざまなつながりを生むことができます。

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映画の1シーンから

 農業は単なる産業の一種ではなく、昔から作物や土、人や地域などいろいろなものをつなぎ、紡いできた「文化」だと思います。お祭りや神事なども農業が伝える文化ですが、もっとも気軽で、身近にあるのが、食文化ではないでしょうか。在来作物のような「そこにしかないもの」で、「おらが町の食文化」を育てることは、誰もがふるさとの魅力を語れることにつながっていくと思いますし、それは山形だけでなく、全国で生まれうる物語なのだと思います。

 すべてを外国に依存するこわさ

 撮影で印象的だったのは、東日本大震災の1カ月前に、在来種の大根を守っているおじいさんの撮影をしたのですが、その方が「戦争中の食糧不足のとき、この大根を入れた大根飯を食べた。TPP交渉への参加がニュースになっているが、海外に食糧を依存することがどんなに恐ろしいことか。自分たちは食糧不足の記憶があるから…」と、とうとうと語っていたことです。

 そしてその1カ月後に大震災がおき、もののみごとにガソリンもなければ、食べ物も手に入らないという状況が起こり、何から何まで外国に依存して成り立つ社会が、いかにもろいかがわかりました。在来作物の貴重さやおいしさだけでなく、こういう食べ物に飢えた記憶を、作物と一緒に伝えていかないと、と思いました。

 撮影は、どの生産者も半年から1年をかけてしたので、生産者の皆さんの所には何度も通いました。苦労したのは、僕自身が農家の出身でないので、作物がどう成長するのかが分からなかったことです。事前準備してから行くのですが、年によって天候が違ったりして、いつ芽が出て、いつ花が咲くのか、実際にその場に行ってみないとわからない。生き物相手の仕事は本当に大変だと思いました。

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奥田政行シェフ

 映画のなかに、おいしい料理がたくさん出てきます。奥田政行さんの料理は、ふつう遭遇することのないような食材の組み合わせで、素材の味をかみしめながら、香りを食べているようで、常に味覚レッスンを受けているようです。味や香りそのものは映像には映りませんが、楽しさは伝えられたのでは、と思います。


映画のあらすじ

 「藤沢カブ」「白山だだちゃ豆」「外内島(とのじま)キュウリ」「宝谷(ほうや)カブ」など、山形県の一部の地域でしか作られていない在来作物の種を守る10人の生産者が登場。焼畑農業や自家採取といった農作業を、2年かけて丹念に追いました。このほか在来作物を使い続ける漬物屋さんや、独自の料理法で在来作物に新たな命を吹き込むイタリアン・レストラン「アル・ケッチャーノ」の奥田政行シェフも登場し、在来作物の可能性に光を当てます。“水先案内人”を務めるのは、山形大学農学部准教授で山形在来作物研究会会長の江頭宏昌さん。

 豊かな山形の自然と、汗の輝く笑顔、おいしいレシピがあふれた、在来作物と種を守り継ぐ人々の物語です。

▼渋谷・ユーロスペースで10月20日からロードショー。上映時間や、ユーロスペース以外の上映予定は、ホームページ(http://y−recipe.net/)まで。


自家採種した種は“宝物”

映画に出演しているだだちゃ豆生産者
冨樫 裕(ひろ)子さん(農民連会員)

画像 だだちゃ豆の産地で生まれ育って、父と母が作っているのを見てきました。この味が変わらないように作りながら、農業を継いでいる息子や孫に種を受け渡していきたいと思っています。

 だだちゃ豆の種も今では市販していますが、市販している丸い種は発芽率はいいのですが、やはりもともとの形や特性と変わってきています。というのも、だだちゃ豆の本当の特性は劣性で、種にはシワがあって、きんちゃく型で、丸くありません。劣性遺伝だということをしっかり念頭に置いて、こだわって選別していかないと、どうしても味が変わっていってしまいます。

 種を守る仕事は、昔から女の仕事で、私も母から教わりました。映画に孫と種取りするシーンが出てきますが、孫には遊びながら、楽しく種取り作業を伝えていきたい。

 最近は、異常気象で気温も湿度も高くなっていて、自家採種もたいへんになってきました。とくに、だだちゃ豆らしい甘みのある種は、糖度が高いだけに種取りする前に腐ってしまいやすく、しかも発芽率が悪いですから、毎年、心してたくさん種を準備しています。

 農民連には、他の生産者の畑を見たり、勉強したいと思って入りました。昔は農家どうし、競いあったりしましたが、農家も高齢化しているいま、知恵を出し合い、協力する大切さを痛感しています。

(新聞「農民」2012.10.22付)
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2012年10月

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