「農民」記事データベース20121008-1040-01

アメリカ穀倉地帯が大干ばつ

飼料高騰 高まる畜産農家の不安

日本大学准教授 早川 治さんに聞く

関連/生産者に万全な高騰対策を

 世界中に穀物を輸出しているアメリカの穀倉地帯が、今年の夏、70年に一度ともいわれる大干ばつに見舞われています。アメリカ農務省の発表では、この干ばつの影響でトウモロコシと大豆は1988年以来24年ぶりの不作となり、7月以降の穀物価格は史上最高値の更新が続いています。日本は世界一のトウモロコシ輸入国。その大部分が畜産飼料として利用されており、飼料高騰は畜産農家の経営を直撃する問題です。穀物価格の高騰と畜産農家への影響について、国際的な飼料流通に詳しい日本大学の早川治准教授に話を聞きました。


飼料価格補てん拡充など
政府の緊急対策が必要

 離農が増えるのではと危ぐ

画像 アメリカの大干ばつで世界の穀物需給が危機的状況なのは確かですが、不作の実態が明らかになるのは、アメリカの収穫量が確定する10月末になります。さらに南アメリカ大陸ではこれからトウモロコシの播(は)種が始まります。南米の生産が順調であれば、2008年のような極端なパニックにはならない可能性もあって、どれほどの高騰になるのか、今後の先行きはまだわかりません。

 日本の畜産農家にとっても2008年の飼料高騰時とは若干、違う状況もあります。今は為替が1ドル80円前後と円高ですし、飼料メーカーも2008年の高騰に学んで、先物取引の手当てに真剣に取り組むようになっています。農水省も9月21日に配合飼料の価格補てんの拡充を発表していて、今回は高騰対策に早めに動いています。

 しかし一方で、畜産物の市場価格は2008年よりも今はずっと悪くなっています。しかも消費税増税と景気の悪化で、畜産製品の値上げもできる状況にはありません。そういうなかでの飼料高騰は、08年の荒波を生き抜いた畜産農家をもう一度ふるいにかけることになり、離農が増えるのではと危ぐしています。

 この穀物高騰は1〜2カ月では終わりません。畜産農家には最低限、飼料価格高騰に伴う補てんが必要です。経営を維持し、生活を保障する緊急対策を、政府に求めていく必要があります。

国産飼料の生産基盤の確立を

 輸入依存の畜産今こそ見直しを

 同時に、中長期的に見れば、輸入穀物に依存してきた日本の畜産のあり方も考え直す時に来ていると思います。今回の干ばつに限らず、穀物価格は今後も「高止まり」するとみられています。値上がりする要素はあっても、値下がりする要素が見いだせない状況だからです。

 たとえば、日本が輸入しているアメリカ産トウモロコシは、以前は高いグレードのものを手当てしていましたが、今はこのグレードのものを中国が食用・飼料用として買い占めており、日本はグレードを落として輸入せざるを得ない状況になっています。中国は家畜頭数を増やしていて、穀物需要がどんどん高まっており、日本より高値で買い取る中国に、日本は負けてしまっているのです。

 アメリカ中西部の穀倉地帯を見ても、地下水をくみ上げ過ぎて地盤沈下が起こっており、未来永劫(ごう)、穀倉地帯たりうる保障はありません。

 日本の畜産はこれまで、高品質な輸入飼料を与えて、高品質な肉を作る技術で成り立ってきました。しかしこれだけ穀物市場が不安定ななかで、輸入飼料に依存した畜産ではない、本当の「日本型畜産」の再構築が求められる時代に入って来ていると思います。

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 消費者ニーズの転換も重要に

 それには、飼料米や耕作放棄地の利用など、国内に新たな畜産資源や飼料資源をもう一度開発しなおす農業政策が必要になってきます。

 その前提となるのは、土地利用の体系や地域振興、地域産業などの要素と連携させた、国産飼料の生産基盤の確立です。畜産農家が自分で飼料を生産するのではなく、粗飼料を生産できる生産者組織を確立し、国内で運搬・流通させて、畜産農家が利用できるような体制づくりを、国や行政は推進していくべきです。

 消費者の「霜降り肉がいい」という意識やニーズの転換も非常に重要で、これは農家だけではできません。食品産業などともタイアップして、消費者の啓蒙が必要です。

 日本の畜産農家は、自分たちの経営を守っていくと同時に、国産飼料の生産組織や基盤をどうやってつくっていくか、そしてもう一方では、日本の消費者の意識を転換するという、「川下」と「川上」の両方をコーディネートしていく役割が求められているのだと思います。これは5年、10年とかかる大事業ですが、だからこそ今から取り組んでいかなければならないのではないでしょうか。


生産者に万全な高騰対策を

 畜産農民全国協議会会長で、養豚農家の森島倫生さん(静岡県浜北市)

画像 干ばつの影響が、飼料価格に反映されるのは時間差があって、畜産農家の現場にはまだ飼料高騰という目に見える影響は現れていません。また現時点の値上がり分については、不十分ながら国から補てん金が拡充されるという発表があって、畜産農家は様子を見守っているというのが現状です。

 しかし今後については、たいへん不安に思っています。2008年の高騰以降、畜産農家の離農が相次いでいます。さらに離農につながらないよう、万全の高騰対策が求められています。

(新聞「農民」2012.10.8付)
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2012年10月

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