検討会「中間まとめ」をふまえて
評価変わりつつある都市農業
学習会での後藤光蔵教授の報告
東京農民連は9月15日、清瀬市で「都市農業・農地を守る学習会」を開きました。武蔵大学の後藤光蔵教授は、自ら座長を務める農水省「都市農業の振興に関する検討会」の「中間取りまとめ」(8月9日発表)について報告しました。後藤教授の報告の大要を紹介します。
独自の多様な役割を守り
持続可能な振興図ってこそ
住民・自治体の評価も高まって
いま、都市農業・農地の位置づけの転換に向けて動きがあります。国土交通省社会資本整備審議会での検討と、農水省「都市農業の振興に関する検討会」です。
そのなかでは、1968年に制定された都市計画法が、農地を「10年後には消滅する経過的な存在」と位置づけてきましたが、その転換を図ろうとしています。
これには、農業体験農園など、都市にふさわしい農業の実現に向けた農業者の努力と、自然環境や住環境の保全、防災機能、子どもの教育や地域コミュニケーションの形成・維持など、都市農業・農地の多様な役割に対する住民・自治体の評価の高まりがあります。
また国も、「食料・農業・農村基本計画」などで、「都市農業を守り、持続可能な振興を図る」とうたっています。
その背景には、都市人口の減少や高齢化の進展、さらには豊かな自然環境や自然とのふれ合い、家族や地域の人々との結びつきを大切にしようとする価値観の転換と多様化があります。
さらに、東日本大震災を経験して、災害に強い都市づくりが求められています。こうした都市が直面する課題に、都市農業・農地は貢献できる可能性をもっています。
つまり、都市農業・農地は、人々の快適な暮らしを支える“都市施設”としての性格をもっているのです。
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東京農民連主催の「都市農業・農地を守る学習会」=9月15日、東京・清瀬市 |
困難な条件の克服が急務に
まちづくりを進める上で、快適な生活や生産活動を保障する都市空間形成のための農地利用という課題に取り組み、農地の転用を規制することに加えて、利用を規制すること(農場の景観、直売所や農園の数量や配置などを考えていくこと)も必要です。
今後、農地を保全するための施策として検討すべき点は、農業の振興です。農業経営の収益性の向上を実現し、農業後継者として育ち、家として農業経営が継承されることによって農地が保全されなければなりません。
とくに都市農業では、(1)高地価により均分相続制度が困難(2)農地の貸し付けで相続税納税猶予が継続できない(3)市街化区域農業の場合は、農業基盤強化法による利用権設定が生業としての農業目的に限定されている――などの困難な条件があります。こうした課題の克服は急務です。
税制含め制度見直しが不可欠
次に、農家が継承できなくなった農地であっても保全する施策として農地の公有化が必要です。そのためにも農地の買い取り資金の手当てや買い取り目的の拡大などの施策が必要です。
また、農地の減少は、相続税の支払いを契機に発生していることが多く、それを防ぐには、相続税の支払い方法として物納を選択できるようにし、物納された農地を国は換金せずに保持し、利用を自治体に委託できるようにすることです。
こうした取り組みを実現するためには、税制を含めた制度の大きな見直しが不可欠です。
農水、国土交通、財務の各省を動かす農業者、住民、自治体による、より一段高いレベルでの協働の取り組みが求められています。
(新聞「農民」2012.10.1付)
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