第20回
生ごみリサイクル交流会
放射能汚染の農地再生へ
「NPO法人有機農産物普及・堆肥(たいひ)化推進協会」(NPOたい肥化協会)などでつくる実行委員会は8月21日、東京・明治大学リバティタワーで「第20回生ごみリサイクル交流会2012・生ごみは宝だ!」を開き、市民、自治体関係者、農業者ら362人が集いました。
地域資源の循環
生ごみ堆肥化と有機農業テーマに
始まっている豊かな土づくり
午前中は全体会が行われ、「NPOたい肥化協会」の瀬戸昌之理事長が「生ごみを資源化し、たい肥化する取り組みが進んでいるさなかに、震災・原発事故が起こってしまった。一方で、放射能汚染を克服しながら、豊かな土づくりの取り組みが始まっている。多面的な議論を通して考えよう」と主催者あいさつ。明治大学農学部の田畑保教授が「交流会を通じて、農村はもちろん都市部でも生ごみリサイクルの取り組みが前進することを期待します」と、歓迎あいさつをしました。
大震災・原発事故を踏まえて
基調講演では2氏が報告。「東日本大震災復旧・復興みやぎ県民センター」の綱島不二雄代表世話人は「大震災、原発事故を踏まえての生ごみ堆肥化運動と日本農業の課題」と題して講演しました。
綱島さんは、大震災による復旧・復興が大幅に遅れ、工業と農林水産業との間でも格差が生まれている実態を述べ、その原因として、(1)生業である農業・漁業とコミュニティーの軽視(2)構造改革政策の強行(3)原発事故―にあると指摘しました。
こうした下で、被災地各地で復旧に向けた自主的取り組みがみられ、「これには、全国からの支援やボランティア活動が大きな力になった」と述べました。「今後、被災者中心の復旧・復興がさらに求められる。それぞれの地域で、堆肥化運動と学校給食のリサイクルの取り組みが結びつけば、地域農業と消費者との連携が可能になる」と訴えました。
元気な野菜食べ元気な人育てる
次に、「生ごみは土づくりの最高の資源」のテーマで、長崎県佐世保市に拠点を置く「NPO法人大地といのちの会」の吉田俊道理事長が報告しました。1999年から生ごみの減量を主目的に、生ごみを使って家庭菜園での有機野菜づくりを研究し、普及活動を行ってきた「大地といのちの会」。吉田さんは、発酵型の土づくりを通じて、その土壌で育つ野菜は元気になり、「おいしく元気な野菜を育てると、病害虫は減る」と述べ、その実践例を紹介しました。
さらに、「元気な野菜を食べることが元気な人間を育てる」とし、有機農業の実践者による食育の必要性を語りました。
害虫を抑制して土づくりに効果
午後からは、4つの分科会に分かれて交流が行われました。
第2分科会「放射能汚染の中で土づくり、農業の再生にむけて」では、2氏が事例発表。「NPO法人あしたを拓(ひら)く有機農業塾」の涌井義郎代表理事(茨城県笠間市)は、「有機農業の技(わざ)に注目」として、農作物から放射能の吸収を低減させる技術について報告しました。
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報告する涌井さん(立っている人)と菅野さん(その左) |
震災で、農地と植物が汚染されるなかで、「屋内で堆肥化が行われていた家畜ふんや油かす、米ぬか、魚粉などが汚染の少ない堆肥原料だ」と紹介。また、コムギやオオムギ、クローバなどを使う緑肥草生栽培が雑草を抑え、畝の間にイネ科やマメ科作物を植えることで、害虫を抑制でき、土づくりにも効果がある点を指摘しました。
涌井さんは「有機農業への関心が大きくなっており、農業後継者を育てる『研修農場』に挑戦している。他の有機農業者や研究者、自治体などと連携して、農業の再生に取り組んでいきたい」と語りました。
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ぼかし肥料のまき方を研修生に指導する涌井さん(左) |
子どもらの歓声こだまする街に
福島県有機農業ネットワークの菅野正寿代表のテーマは「有機農業による土づくりが復興への光り」。菅野さんが住む二本松市東和地域では、有機農家と牧場、生協などが出資して堆肥センターを設立し、2005年には、農家と商店が中心になって、「NPO法人ゆうきの里東和ふるさとづくり協議会」を立ち上げたことを紹介しました。
こうした地域資源循環のまちづくりが軌道に乗ってきたさなかに、原発事故が起き、田畑は高い放射線量に悩まされました。堆肥センターで作った「げんき堆肥」を散布してトラクターで3回耕すと放射線量が下がり、田畑を耕し土壌に混和された放射性セシウムは土壌に固定化され、作物への移行は低くなった事例を紹介しました。
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菅野さんが取り組む「ひまわりプロジェクト」は油を搾り、消費者との交流に役立っています |
最後に菅野さんは「有機農業で持続可能な地域づくりを進め、子どもたちの歓声がこだまする福島を再生していきたい」と結びました。
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全体会と4つの分科会の報告を収録した資料集を販売しています。A4判、92ページ。1冊1000円、発送費290円(事前振込制)。申し込みは、NPO法人たい肥化協会(TEL 03・5410・3735)まで。
(新聞「農民」2012.9.3付)
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