「農民」記事データベース20120806-1032-07

エネルギー自立地域訪ねて

スイス(メルヒナウ村)編


エネルギー自給の地域暖房センター
木質バイオマスを活用して

 豊かな水資源と森林を利用して

画像 ドイツ、スイスのエネルギー自立地域を視察した農民連関東ブロック協議会の一行は、7月5、6の両日、スイスを訪問しました。北部のバーゼル近郊や、中部よりやや北のメルヒナウ村を訪れました。

 九州よりやや小さい国土のスイスは、標高193メートルから4634メートルまでの高低差に富んだ地形です。「アルプスの豊かな水資源と、国土の3割を覆う森林が重要な再生エネルギー源として利用されてきました」。スイス在住の環境ジャーナリストで、通訳と案内を務めてくれた滝川薫さんはこう指摘します。

 スイスでは、最終エネルギー消費量のうち、再生可能エネルギーの割合はいまだに2割にすぎず、8割は外国から輸入された化石エネルギーなどの非再生可能エネルギーです。再生可能エネルギーのなかで、大きな役割を占めるのが、水力(12・6%)と木質バイオマス(4・2%)です。

 福島事故を機に原発新設を禁止

 原発依存度40・1%で世界8位のスイスでは、2011年の福島での原発事故を機に、原発の新設を禁止し、原発ゼロと再生可能エネルギーの促進に向けて歩み始めています。なかでも、最も注目されているのがバイオマス(とくに木質バイオマス)です。

 スイスの農村では、農家が自分の敷地内に、林業で生じる間伐材や端材などの木質チップを貯蔵するサイロや、それを燃やすボイラー施設をつくり、近くの公共建築物や商業施設、集合住宅などに熱を販売する例が増えています。

 たとえば人口1500人のメルヒナウ村。ここでは、農家50世帯の組合が所有する小さなチーズ工場の敷地を借り上げて、そこに地域暖房センターを建設。灯油熱源の交換の際に、地元4軒の農家がワーキンググループを立ち上げ、2009年に運転を開始しました。

 暖房センターの運営者で、自ら林業と酪農を営むハンス・ドゥッペンターラーさん(61)は、「村の豊かな森を生かして、木質バイオマスで地域暖房を行おうと、仲間と話し合いました」と建設当時を振り返ります。

 自ら出力700キロワットのチップボイラーの制御コンピューターを操り、機械技師の息子さんと一緒に設備の運営に携わっています。

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暖房システムの説明をする滝川さん(左)とドゥッペンターラーさん(その隣)

 建設資金のうち自己資金分は、農家の出資金のほか、環境団体によるCO2削減量の買取金、州からの助成金など。残りは、銀行から借り入れました。約1・7キロメートルの熱供給網の配管工事は、農家自ら農閑期に行いました。

 太陽熱利用でエネルギー節約

 ここで熱供給するのは、チーズ工場のほか、地域の学校、団地、高齢者ホーム、幼稚園、銀行、レストラン、集合住宅、一戸建て30棟などです。

 また、暖房センターの屋根には70平方メートルの太陽熱ソーラー温水器が設置されています。太陽熱を使うことで、木質チップの消費量を減らし、年3500リットルの灯油に相当する熱エネルギーの節約に貢献しています。

 温水器の資金は、住民から1平方メートルあたり100フランの出資を募り、資金の払い戻しはチーズで行われます。出資者は、村のチーズ工場の商品券100フラン分を受け取るというユニークな制度です。

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村のチーズ工場の敷地は地域暖房の拠点

 ドゥッペンターラーさんは他の3軒の農家と共同で畜舎を運営し、約100頭の乳牛を飼い、チーズ工場に牛乳を出荷、直売しています。エネルギーの自給により、販売するチーズが増えれば増えるほど、農家はより大きな利益を得るしくみになっているのです。

(新聞「農民」2012.8.6付)
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2012年8月

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