講演
TPP交渉の現状
−各国の思惑と日本の参加をめぐって−
(下)
ニュージーランド・オークランド大学
ジェーン・ケルシー教授
ISDS条項は国民の利益や権利より
外国企業を優先させる
私たちは最近、TPP交渉文書のうち投資に関する合意案をリーク(暴露)しましたが、真実があきらかになることによって国会議員やメディアのなかで議論が活発になっています。リークした投資文書で明らかになったことは、投資家や企業が政府を訴えることができる権利(ISDS条項)に反対しているのはオーストラリアだけ。
私たちは、ニュージーランドなどほかの国にも反対するよう訴えていますが、これらの国は逆にオーストラリアに圧力をかけています。また投資のなかには、政府発行の国債など公的債務も含めるかどうか対立しています。環境や公共の医療に例外を認めるかどうかでも対立しています。
この件でいま論争になっている事例を紹介すると、破たん寸前の会社を買収するアメリカの企業ローン・スター社が韓国政府を訴えています。このケースは、韓国政府が短期間に企業の売却をできないように規制したために、不利益を被ったというもの。2つ目は、スイスの原子力企業ヴァッテンフォール社がドイツ政府を訴えているケース。これは福島原発事故を受けて、ドイツ政府が「脱原発」に政策転換したために、投資がなされた際の「正当な期待」を侵害されたというもの。3つ目は、アメリカのたばこ会社フィリップ・モリス社が、たばこの害に関するラベル表示の規制に対して、ウルグアイとオーストラリア政府を訴えています。
外国企業の目的は、損害補償をかち取ることだけではなく、政府に規制をさせないで及び腰にさせようと圧力をかけています。この投資に関する合意案は、私たちから見れば、国民の利益や権利よりも外国企業を優先させるもので、民主主義に反しています。
そのほかにも、医薬品や知的所有権、著作権などいくつか問題があります。たとえば農業では、ニュージーランドはアメリカが酪農製品の開放をしなければ交渉をやめると言っていますが、アメリカは自国の市場開放を拒んでいます。
国際連帯強めて共にたたかおう
アメリカ政府からのコメントのなかには、「TPPは(WTOの)ドーハになった」、つまりWTOドーハラウンドのようにマヒしてしまったという意見もあります。しかし、政治家たちが合意にむけて強行するのではないかと心配もしています。
私たちは勝ちつつあるし、勝てます。同時に、政治家がやりそうなことをやらせない運動が必要です。自信を持って、しかし警戒を怠らず、油断せず、本腰を入れてやっていこう。国際的な連帯を強化しよう。いっしょにたたかってTPPを打ち負かそう。
(おわり)
(新聞「農民」2012.7.16付)
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