講演
TPP交渉の現状
―各国の思惑と日本の参加をめぐって―
(上)
ニュージーランド・オークランド大学
ジェーン・ケルシー教授
ニュージーランド・オークランド大学教授のジェーン・ケルシーさんは6月21日、「STOP TPP!! 市民アクション」が主催した「私たちの未来は私たちが創る。地域で、世界で、STOP TPP!!」のなかで、「TPP交渉の現状―各国の思惑と日本の参加をめぐって」と題して講演しました。その一部を2回にわたって紹介します。
技術面で大きな困難・対立もあるが
合意までの「ロードマップ」を設定
メキシコ、カナダ日本とは別扱い
TPP交渉をめぐる最近の動きを紹介したい。6月18日、アメリカ政府はメキシコとカナダをTPP交渉に参加させると表明しました。だからといって、メキシコとカナダがすぐに交渉のテーブルにつけるというわけではありませんし、交渉文書を見られるわけでもありません。アメリカには、連邦議会への90日前告知というルールがあって、アメリカがメキシコ、カナダとTPP交渉をすべきかどうか、議会が90日間にわたって公聴会などを開いて議論がなされます。
ここで注目すべきことは、日本の交渉参加には自動車や保険、牛肉といった分野で事前協議を求めているにもかかわらず、カナダには事前協議を求めていないということです。つまり、メキシコとカナダは、日本とは別扱いだということです。なぜかというと、私の解釈では、アメリカにとってメキシコ、カナダは政治的に議論がおこる国ではないということです。だから、たとえメキシコとカナダがTPP交渉に参加しても、日本が自動的に参加を認められることにはなりません。
ニュージーランドの貿易担当大臣は「日本はTPPに参加する前に事前協議が必要だ」と明言していますし、アメリカの国会議員のなかにも同様の意見があります。なぜ、アメリカ政府がメキシコとカナダの交渉参加を認めたのか。それは、オバマ大統領が11月の大統領選挙にむけて、TPP交渉の中で何かが起こっている、何か成果が出ているということを表明する必要があったのでしょう。
各国の交渉官らからの情報では、技術的な問題で大きな困難、あるいは対立があります。同時に、交渉を最終的にまとめてしまおうという政治的な圧力も強くなっています。
交渉まとめよと政治的な圧力が
TPP交渉はいま、アメリカによってコントロールされています。6月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)貿易担当大臣の会合では、合意までの「ロードマップ」(工程表)が設定されました。しかし私たちは、秘密主義によってどのような内容か、知ることができません。9月のAPEC首脳会談、あるいはアメリカの大統領選挙前までに交渉をまとめようとするたいへんな圧力がかかっています。
(つづく)
(新聞「農民」2012.7.9付)
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