「農民」記事データベース20120604-1023-01

ズサンな対策改めて浮き彫りに

アメリカで4例目のBSEが発生

 TPP参加の「事前協議」で、牛肉の輸入規制の緩和を日本に強く迫っているアメリカ。そのアメリカ・カリフォルニア州で、4例目となるBSE感染牛が見つかりました。このニュースはあらためてアメリカのズサンなBSE対策を浮き彫りにするもので、現在、日本の食品安全委員会で進められている輸入規制緩和の議論や、ひいてはTPPへの参加協議にも影響を与えることは必至です。


 「輸入国はアメリカ産牛肉を輸入し続けるべきだ」

 アメリカ農務省は「今回発見された感染牛は“非定型BSE”だった」と発表しました。

 非定型BSEは、世界中でBSE検査が進んだことから発見されるようになった、きわめてまれなタイプのBSEですが、なにしろ発生数が少ないため、原因や感染性など詳細はまだわかっていません。

 従来型のBSEは、牛の死体や食用にならない部分(頭や皮、骨など)を砕いて熱処理した「肉骨粉」を、牛や鶏、豚の飼料に再利用することで、感染がまん延したといわれています。これに対して、非定型BSEは、自然の突然変異で発生したものと考える研究者が多いことから、アグリビジネスなどは「肉骨粉を飼料にすることが原因ではない」と主張しています。

 アメリカ農務省のクリフォード主任獣医師も、こうした主張を体現するかのように、この問題では初めてとなった4月24日の記者会見で早々と、「感染牛は“非定型BSE”で、感染源は飼料ではないとみられる。アメリカのBSE対策は、OIE(注)からも認定されており、適切だ。(だから)今回のBSEの発見は、輸出には影響しないはずだ」と発表しました。この発表の時点では感染牛の月齢や出生場所すら明らかになっていなかったというのに――です。

 海外に牛肉を売り込みたくてしょうがないアメリカ農務省のこうした発表の信ぴょう性を疑うのは、危険かもしれない牛肉を食べさせられる輸入国にとっては当然のことです。


(注)OIE(国際獣疫事務局) 世界の動物衛生の向上を目的とする国際機関。動物衛生や、BSEを初めとする人獣共通感染症に関する国際基準の作成等を行っている。アメリカの影響力が強く、NGOなどからは「アグリビジネスに都合のよい決定がなされている」との批判の声もあがっている。

 「非定型BSEの原因は飼料ではない」は本当か

 では、非定型BSEであれば、本当に「飼料からの感染ではない」と断言できるのでしょうか。

 これまでの実験研究から、「牛から牛」以外に、マウス、サルにも感染することが明らかになっています。仮に非定型BSEが自然の突然変異で発生するとしても、その後の感染の可能性や感染ルートなどが、現在の研究段階では、まだ解明されていません。「わからないことが多い」からこそ、「飼料では感染しない」と断定するのは、きわめて拙速な判断であり、非定型BSEにも厳重な警戒が必要なのです。

 アメリカの年間検査数は0・1%に満たない4万頭

 それにしても、今回アメリカで発生したBSEが、アメリカ農務省いわく「飼料が原因ではない」非定型BSEというのも、あまりにもアメリカに都合がよい結果といえます。なぜなら、アメリカの飼料規制は、EUや日本とくらべても、比較にならないほどズサンだからです。

 アメリカでは、牛の肉骨粉を牛に与えることは禁止されているものの、鶏・豚には与えてよいことになっています。このほか、牛の肉骨粉を製造した機械や設備で豚・鶏の肉骨粉をつくることも禁止されておらず、牛の血液や血液製品の利用も許されています。

 感染の危険性が高いとされる頭部やせき柱などの特定危険部位(SRM)の除去も、アメリカはきわめて緩い内容になっています。

 また、アメリカはBSE検査の頭数でも、2005年には約40万頭だったのが、現在では9割も減少し、年間で約4万頭しか検査されていません。この数字は、アメリカの牛の0・1%に満たない頭数分です。こうした検査体制に、アメリカ消費者同盟の科学者、マイケル・ハンセン氏は「アメリカ農務省は、ロシアンルーレットで国民の健康をもてあそんでいる」と指摘しています。

 米農務省発表うのみの日本政府現地調査せず、規制措置もとらず

 韓国と台湾の両政府はBSE発生を受けて、早速、アメリカに現地調査団を派遣しました。ところが日本政府は調査団を派遣するどころか、アメリカ農務省からBSE発生の第1報が発せられた翌日早々に、藤村治官房長官が記者会見し、「輸入段階で特段の規制措置は必要ないと考えている」と述べる始末。TPP交渉に関しても、「それとは別に、個別に対応する案件だ」と語り、TPP参加への事前協議を急ぐ姿勢を明らかにしています。

 国民の食の安全・安心よりもアメリカいいなりを優先する日本政府に、今こそ大きな抗議の声をあげていくときです。

(新聞「農民」2012.6.4付)
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2012年6月

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