どんなエサ(FTA)にも
すぐ飛びつく“ダボハゼ”政権
日中韓FTAなら“よりマシ”か
野田首相は5月13日に開かれた日中韓首脳会談で、年内に日中韓FTA(自由貿易協定)交渉を開始することで合意し、共同記者会見で「TPPと日中韓FTAを並行的に追求し、すべてが活性化することを期待したい」と強調しました。
しかも、日本が「即時交渉入り」を迫り、渋る韓国に配慮して「年内」に落ち着いたのです。
野田首相は5月1日の日米首脳会談では「牛肉」「自動車」「保険」の開放を求めるオバマ大統領に何の反論もせずに、TPPに関する日米協議を前進させることを誓い、オーストラリア、EU(欧州連合)との交渉にも前のめりです。
これでは“ドジョウ”ではなく、どんなエサ(FTA)にもすぐに飛びつく“ダボハゼ”です。“ダボ”とはドアホを意味する播州弁。
アジアFTAとTPPは「まったく違う」か?
日中韓を含むアジアのFTAとTPPがまったく違う選択肢だという論評も出始めています。たしかに、例外なき関税撤廃を大前提とするTPPと、多少の“柔軟性”を持ちうるFTAとの違いはあります。しかし、野田政権がのめりこんでいるFTAとTPPがまったく違うものとは、とうてい言えません。
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国会前にすわり込む農民連(4月25日) |
韓中FTAの被害は韓米FTAの3倍
第1に、韓国が日本に先駆けて交渉入りした韓中FTAをめぐって、韓国国内では「韓米FTAよりも実害が大きい」という反対論が強まっています。
韓国農村経済研究院は、米を除くすべての農産物の対中国関税を撤廃した場合、韓米FTAの生産減少推定額の3倍にあたる2兆3585億ウォンも減少すると推定しています。また韓国紙「ハンギョレ」(5月2日)は、「国産穀物類や果物・野菜類の値段が中国より5〜7倍も高い状態で中国産が大量輸入された場合、国内の農業基盤は瓦解するしかない。いくら重要品目に指定して関税縮小の期間延長などの保護装置を設けるとしても、農業の破綻は時間の問題にすぎなくなる」と指摘。韓国中小企業中央会も「国内工場の中国移転による産業空洞化現象・失業率増加などが予想される」と懸念を表明しています。
韓中FTAの破壊的影響が、日中韓FTAにそっくり及ぶことは必至です。ビア・カンペシーナや農民連とも強いきずながある韓米FTA阻止国民運動本部は、「韓中FTA交渉では、韓米FTAより激しい闘争が続く」と宣言しています。
アジアFTAの「TPP化」公言
第2に、野田首相は、日中韓FTAに“柔軟性”を持たせるつもりはさらさらなく、アジアFTAの「TPP化」を公言しています。
日米首脳会談で野田首相は「TPPはアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)実現のための道筋の一つである」と発言し、さらにアメリカ紙「ウォールストリート・ジャーナル」のインタビューで次のように述べています(5月12日)。
「FTAAPの実現が究極のゴールだ。アジア・太平洋地域で貿易・投資のルールを作って、開かれた自由経済を実現するのはわが国の国是だ。日中韓を含むASEAN(東南アジア諸国連合)+3、ASEAN+6もFTAAP実現に向けた道筋だ。それぞれに日本がかかわることによって化学反応が起こって、むしろそれがスピードアップすることを期待している。最終的にはTPPに中韓が入れるよう環境を整備していかなければならない」と。
自由貿易にすぐに飛びつくという点では、野田首相と同様の“ダボハゼ”日本マスコミは、日本が早くTPP交渉に参加し、アメリカと中国の主導権争いを調整すべきだという論調を繰り返しています。
しかし、野田政権とアメリカが狙っているのはアジアFTAの「TPP化」です。野田首相がいう「化学反応」とは、世界とアジアをどん底に追い込む原発事故並みの「放射能反応」にほかなりません。
オバマ大統領は、9月に開かれるAPEC首脳会議を欠席して大統領選挙に突入すると宣言しました。日本のTPP交渉参加“9月ヤマ場”説から、G20サミットが開かれる“6月ヤマ場”説に移るなど、動きは急です。
“日中韓FTAなら、よりマシだ”と国民をあざむきながら、TPP推進にのめりこむ野田政権を包囲する運動が求められています。
(真嶋良孝)
(新聞「農民」2012.5.28付)
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