農民連
原発事故の損害賠償運動交流会
全被害者に広がる運動の成果
原発ゼロへ 組織さらに大きく
農民連は4月26日、東京都内で、福島第一原発事故の損害賠償運動の交流会を開き、各地から約50人が参加しました。
笹渡義夫事務局長が開会あいさつし、「農民連の賠償運動で勝ち取った成果が、原発事故の全被害者に広がっている。賠償運動は、原発がいかに高コストか、原発事故がいかに償いきれない被害を与えるかを明らかにする運動でもある。賠償運動を通じて組織も飛躍させ、原発ゼロの社会をめざす力を大きくして、原発推進勢力に突きつけよう」と訴えました。
農民連の役割は
農民連の損害賠償チーム責任者の齋藤敏之常任委員が、賠償の現状と、農民連の賠償運動が果たしている役割について報告しました。齋藤さんは東電の賠償への姿勢について、「原子力損害賠償審査会の中間指針では『原発事故と相当因果関係がある損害はすべて賠償する』『賠償を迅速に進めるために、主要な損害を類型化する』としている。しかし東電は中間指針を極めて狭く解釈し、『中間指針の類型にないから賠償しない』と全面賠償を頑(かたく)なに拒んでいる」と指摘しました。
同時に、農民連の請求運動によって、「出荷停止になっていない品目でも検査費用が賠償された」「放射能分析機器の購入費用が賠償された」「放射能計測などの出張旅費が賠償された」など、中間指針の枠を突破する賠償が勝ち取られてきたことを強調。税金申告運動などでも、農民一人ひとりが自覚を高め、当事者同士で交渉することで多くの問題を解決してきたことに触れました。
そして、農民連の賠償運動の基本として、(1)農民一人ひとりが請求者となる、(2)被害は自ら計算する、(3)自分たちの書式で請求する、の3点をあげ、自治体や市民団体、消費者と農民連の共同を強めて賠償運動をさらに広げようと呼びかけました。
賠償運動の到達
吉川利明事務局次長が、4月下旬までの農民連での賠償請求の到達を報告。14県と日販連(日本販売農協連合会)で、約14億3000万円を請求し、そのうち11億3700万円余が支払われていることを報告しました。
各県からの報告では、こうした成果が具体的に紹介される一方で、「こんなものは賠償されないだろうと、請求自体をあきらめている農家が非常に多い」という報告が続々とあがりました。
あらためて、「中間指針で示された17都県の米の放射能検査料」「シイタケ原木の不足による値上がり分や、入手できなかったことによる減収分」など、農民連の賠償運動で賠償されることが明らかになった成果を確認し、「あきらめずに請求しよう」と、決意を固めあいました。
請求あきらめず
取り組みを訴え
山形県連 佐藤博さん
東京などのツアー会社2社と契約し、毎年、サクランボ狩りツアーを受け入れてきた。しかし昨年は原発事故の影響で、「福島を通って行きたくない」と、お客さんが7割減になってしまい、生活費にも困る大変な状況だ。1社はツアー募集自体をとりやめた。
3月に東電に請求書を出した。周囲の観光果樹園の農家とも話をしているが、ほとんど泣き寝入りしてあきらめている。自分の請求書は自分で作るという姿勢で賠償請求に取り組むのが大切だと、周りの農家にも呼びかけている。
相談を受け請求
損失分など獲得
岩手県連 堂前貢さん
農協出荷していない肉牛の肥育農家が「エサ代の支払いが困難。融資可能な制度はないか」と、県連に相談に来た。事情を聞くと、原発事故による価格下落・停滞が経営悪化の原因であることがわかり、農民連で賠償請求した。
請求額は農協の賠償請求の単価をもとに計算。価格下落分と出荷遅延期間の経費、営業損失を合わせて4800万円弱(2月出荷分まで)で、4月下旬に合意した。3月以降の出荷分も随時請求することにしている。
返品・廃棄の茶
賠償をかちとる
静岡県連 種石かおりさん
風評被害で売れなかったり、返品になったりしたお茶の請求をした。最初、生産者は誰も本当に賠償されるとは思っていなかったが、最初に開いた説明会で東電が「賠償する」と明言したため、13人が賠償請求した。
返品・廃棄したお茶の分は請求額満額が賠償された。しかし出荷制限されていなかった5月分の売り上げ減少分や、風評被害対策の宣伝費用、お茶と一緒に注文をとっていたミカンや米、野菜などの売り上げ減少分は賠償されていない。
また、出荷制限されていない自然薯(じねんじょ)の検査費用を請求し、賠償を勝ち取ることができた。その生産者は自然食品の小売会社に出荷しており、検査しないと店頭に並べられない状況を口頭で説明したところ、賠償されることになった。
(新聞「農民」2012.5.21付)
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