農民連
原発事故の損害すべて償え
風評被害、検査費用…線引きするな
農民連は4月26日、福島第一原発事故によるすべての損害を速やかに支払うことなどを求めて、東京電力本社と交渉しました。交渉には、福島をはじめ山形、宮城、栃木、群馬などの東北・関東の近県や、静岡、奈良、大阪など15道府県から約50人が参加。東京電力側は、賠償相談室の紫藤英文部長らが対応しました。
東電本社
「相当因果関係なし」
「合理的理由がない」
“だから賠償しない”と居直り
農民連は事前に、(1)すべての損害を賠償する姿勢を明確にし、速やかに支払うこと、(2)放射能分析については地域・品目で線引きせず、すべて賠償対象とすること、(3)賠償金を非課税とするよう、東京電力からも政府に要請すること、などの5項目について、各県での実例を列挙した要請内容を知らせてあります。
これらの実例の中には、「風評被害による売り上げ減少分の賠償を認めない、または門前払いになっている」(宮城、岩手、山形)、「外国人研修生が原発事故で帰国してしまい、廃棄せざるを得なかったイチゴの賠償を認めない」(茨城)、「米以外の野菜や果物、土壌などの検査料を賠償として認めるべき」(山形をはじめ複数県)、「風評被害による売り上げ減少を回復させるためのチラシや試供品などの追加的費用を賠償対象から外している」(静岡)など、19の実例が含まれています。
東京電力は、「原子力損害賠償審査会の中間指針に沿って、“相当因果関係”があるものはすべて賠償する」と回答しながら、しかし実際には農民連から出された多くの具体的要求に対し、「中間指針の類型で明示されてない品目や地域だ」「相当因果関係が不明」「合理的理由がない」などを理由として、「賠償対象としない」という答弁を繰り返しました。
◇
おもなやり取りは次の通り。
農民連(以下「農」) 原発事故で外国からの農業研修生が帰国してしまい、イチゴを畑に廃棄した。賠償すべきだ。
東京電力(以下「東」) 事故当時、日本国内にいれば報道などの情報もあったはずで、外国人の状況も日本人と同じ。だから外国人が帰国したのは合理的判断とはいえず、賠償すべきとはならない。
農 日本人だって何の情報もなくて、多くの人が避難したではないか。
農 賠償開始直後には同じ事例を東電も損害と認めていた。最近になって認めないと言いだした。おかしいではないか。
東 それは…。たしかに大使館から避難指示などが出されていれば、損害となる。一律に損害と認定はできないが、個別の事例については、因果関係が証明できれば賠償することもある。東電の賠償相談室と個別に話し合ってほしい。
農 事故後、「福島を通って山形に行きたくない」と、東京や関西からのサクランボ狩りツアーの参加者が8割減になった。しかし東電は賠償しないと言っている。これも原発事故の被害だ。
東 山形は放射線量も低く、ツアーを中止したツアー会社や消費者の判断が合理的でない。だから因果関係はあるが、(賠償対象とすべきというほどの)“相当”因果関係があるとはいえない。
農 ここにあげた実例はすべて、原発事故がなければなかったはずの損害だ。どうして「相当因果関係がない」などと回答できるのか。賠償しないと言うなら、東電側が「これはわれわれが与えた損害ではない」と証明するのがスジだ。すべて賠償するべきだ。
非課税にせよと要請すべきだ
農 今やっと支払われている東電からの賠償金は、本質的には慰謝料や資産への賠償でもある。しかし東電が財務省に「営業損害への賠償」と説明したのが原因で課税対象になっている。賠償金を非課税とするよう、東電からも国に要請すべきだ。
東 賠償項目が営業損害であることは変えられない。税金については国税庁と話し合ってほしい。
賠償対象となる重要な成果も
交渉では、東電も「賠償対象となる」と明確にした重要な成果もありました。
放射能汚染が原因で、全国的な不足状態が続いているシイタケ原木について、「原木が入手できないことから生じた収入減少も賠償する」と回答。
また、地域や品目によっては放射性物質の検査料を認めていないことについて、「国から検査指示のあった17都県の米の放射能検査料は対象となる」ことを確認しました。
(新聞「農民」2012.5.14付)
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