「農民」記事データベース20120430-1019-08

再生可能エネルギー電力の
買い取り制度について
(下)

日本環境学会会長 和田 武さん
(公害地球懇・学習会の講演から)


「住民が主体」こそ普及の要(かなめ)
資源いかして地域を豊かに

 地域資源の利益は地域に還元すべき

 最近、買い取り制度の実施を見越して、ソフトバンクや東京海上アセットマネジメント投資信託、豊田通商、NTTといった大企業もさかんに再生可能エネルギーの導入に動き出しています。一方、市民や自治体などによる取り組みも始まりました。

市民や自治体で始まった
再生可能エネルギーの取り組みの例
●青森県NPOグリーンシティ:八戸市の工業団地に2〜3メガワットの「市民出資型メガソーラー発電所」建設を計画。
●コープ札幌:帯広市内の2ヘクタールに200ワットの太陽光パネルを5000枚、総出力1000キロワットの発電所建設。パネル1枚に1人、5000人が8万円ずつを出資。今後、北海道内10カ所に設置する計画。
●神戸市:10メガワットの太陽光発電所を廃棄物処分場に建設する計画。市民債を発行し、自治体と市民で共同建設する。
●兵庫県田可町:ゴルフ場計画中止地に、市が市民出資によるメガソーラーを構想中。2012年1月に町長が表明。
●秋田・株式会社「風の王国」:地域企業や県民などの地域主体を中心に、2012年1月設立。沿岸部と大潟村に1000基規模の大型風車を建設。事業資金はファンドと県民の出資で充当。政府・自治体の参加で安定的に資本を確保し、鉄道・電力を顧客にする。環境保全や地域経済の発展をめざす。

 再生可能エネルギーの普及で大切なのは、住民が主体になるということです。買い取り制度が成立しても、それを生かした市民や地域主体の取り組みがなければ、再生可能エネルギーが原発や化石燃料による火力発電などに代わっただけで、これまでと同様に電力会社や企業主体のエネルギー生産が続いてしまいます。再生可能エネルギーは「地域の資源」ですから、地域に利益が還元され、人々が豊かになり、関連産業も発展していくことが重要です。

 デンマークでは、風力発電で総電力の26%を供給しており、その風車の8割は住民の所有です。それは、再生可能エネルギー法に「風力発電所を建設する際には、全体の20%以上を地域住民の所有にしなければならない」という条文があるからです。計画段階から住民がかかわることによって、風力発電でよく問題にされる低周波や騒音なども回避できます。

 国民負担は目的を納得するのが重要

 買い取り制度の導入には、国民も電気料金として一定額を費用負担する必要があります。2020年までの総買い取り費用は約7・3兆円で、1年平均では8100億円が必要だと試算されています。これを電気料金で徴収すると、家庭の負担額は1カ月あたり411円です。

 これまで再生可能エネルギーの普及を望まない勢力、とりわけ原発推進派は、「再生可能エネルギーの買い取り制度は、家庭の負担が増える」と大宣伝してきました。しかし、この買い取り制度を導入しなくても、電気料金は今後、確実に上がっていきます。というのも、火力発電の燃料になっている原油価格が今後も上昇し続けることは、すでに明らかだからです。その一方で、再生可能エネルギーが普及すれば、化石燃料が節約でき、省エネやエネルギー効率の改善まで含めると、1年間で数兆円も削減できるとの試算もNGOなどから出されています。

 再生可能エネルギーには、一度設置すれば燃料もいらず、大量普及が進むほど設置コストも安くなるため、価格が下がっていくという長所もあります。大切なのは、どういう目的で、なぜ負担するのかを、国民が納得することです。

(おわり)

(新聞「農民」2012.4.30付)
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2012年4月

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