稲作農家の「時給」、
史上初めて「赤字」に転落
農水省調査
マイナス468円
稲作農家の家族労働報酬が、史上初めて「赤字」に転落していたことが明らかになりました。農水省が3月に公表した「2010年産米及び麦類の生産費調査」(確報)によるもの。
稲作農家の「時給」は、90年代後半までは最低賃金(地域別最賃の全国平均)の2倍前後の水準でした。しかし97年に下回り、07年と09年には最低賃金の4分の1に落ち込み、2010年についにマイナス468円の「赤字」に転落しました。
寄生地主制のくびきを脱した戦後、現在の生産費調査が開始された1951年以来、「赤字」は初めて。稲作農家は、他産業の労働者に比べて決して高いとはいえない労働報酬で米生産を維持してきましたが、2010年には1時間あたり468円の持ち出しという事態になっています。石川啄木は「はたらけどはたらけど 猶(なお)わが生活(くらし)楽にならざり ぢつと手を見る」と歌いましたが、約2ヘクタールの水田で米を1・4ヘクタール作っている農家にとって、稲作を続けられない事態です。
下落対策拒否し続け
こういう事態になった原因は、米価の暴落です。政権交代の後、米の相対取引価格は2008年60キロあたり1万5146円、09年1万4470円、10年1万2711円と、年を追って下がり続けました。とくに決定的なのは、10年の水準が物財費と労働費を合計した「費用合計」をも下回ったこと。これ以上下がってはならない水準にまで落ち込んだのが2010年米価でした。
民主党政権は“戸別所得補償制度があるから米価が下がっても心配ない”と言い張り、農民連のたび重なる要求に対して米価下落対策をとることを拒否し続けました。戸別所得補償制度が想定した補てん額1700円に対し、実際の下落幅は1759円。驚くほどの一致ぶりです。補てん金はそっくり大手流通業者のふところに入り、農家は赤字生産を強要されたのです。
大規模農家でさえ TPP参加に異常な執念を燃やす勢力は、小規模農家を追放して大規模化すれば、日本農業は「輸出産業」になると大合唱しています。彼らが想定する規模は15ヘクタールで、米価は60キロあたり4300〜6000円。
しかし、米生産費調査によると、15ヘクタール以上の農家でさえ「時給」は中規模企業の労働者並みの3193円から1275円に激減し、5ヘクタール以上平均では最低賃金以下の666円に下がっています。米価が1万円を大幅に下回る事態になれば、大規模農家でさえ赤字転落は必至です。「そして、誰もいなくなった」後では遅いのです。
2万円を回復すれば
米価が2万円を超えていた1995年の時給は877円でした。生産コストは1万9728円から1万6594円に16%下がっており、米価が2万円を回復すれば、すべての労働者が要求している最低賃金1000円の実現は可能です。
「死にかけている日本農業はTPPでよみがえる」「米を輸出産業に」などという、すり切れたレコードのような合唱を打ち破り、TPP参加反対と生産費を償う米価を実現するときです。
(新聞「農民」2012.4.30付)
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