「農民」記事データベース20120430-1019-01

天引き生活保護費の返還求める裁判

貧困ビジネスにメス!

勝利的な和解が成立
千葉市

関連/不当な貧困ビジネスに謝罪認めさせた意義は大きい

 無料低額宿泊施設を紹介し、住人の生活保護費から高額を天引きする“貧困ビジネス”にメス――。千葉市の任意団体シナジーライフに対し、「家賃などの名目で、生活保護費の大部分を天引きされた」として元入居者が生活保護費の返還と慰謝料を求めた裁判で4月9日、原告にとって“勝利”に等しい和解が成立しました。和解へと導くうえで、農民連食品分析センターが大きな役割を果たしました。


食品分析センター劣悪な米検査の結果
和解に導くうえで貢献

 シナジーライフ相手取って提訴

 事件の発端は、シナジーライフが紹介した無料低額宿泊施設の入居者に支給された生活保護費12万円のうち、10万円を天引きし、入居者には2万円しか手渡されなかったことでした。さらに、シナジーライフの物的な支援は、毎月配給される10キロの米だけ。「これではまともに暮らせない」と、シナジーライフ(被告)を相手取り、元入居者の佐藤英治さん(62)=原告=ら3人は2010年2月に、不当に徴収された生活保護費の返還と慰謝料の支払いを求めて、千葉地方裁判所に提訴したのです(1次)。11月には5人が同様の提訴に踏み切りました(2次)。貧困ビジネスの不当性を訴訟に訴えた先駆的な裁判でした。

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和解を喜ぶ中村市議(左)と佐藤さん

 支給米まずく見た目も悪い

 佐藤さんは、支給された米がまずく、見た目も悪かったので、生活相談にのっていた中村公江・千葉市議(日本共産党)に見せ、中村市議が、千葉県農民連の小倉毅事務局長に相談し、分析センターで検査を受けることになりました。

 分析センターの検査では、カビの菌糸や胞子が確認され、鮮度がきわめて低下していることがわかりました。くず米、砕粒がほとんどで、変色した米も多くありました。

 小倉事務局長は「こんな米が出回ること自体、おいしい米を作ろうと努力している稲作農家をばかにしている。くず米の混入は米価引き下げの要因になり、消費者の米離れが進んでしまう」と怒ります。

 地裁への証拠書類として、分析センターの検査結果報告書と、それを報道した新聞「農民」(2010年5月3日付)が提出されました。原告弁護団の常岡久寿雄弁護士(千葉市・たすく法律事務所)は、「シナジーライフの不当性を証明するために、数値的なデータが欲しかったので、分析センターの検査結果は、和解に導くうえで大きな影響力をもちました」と振り返ります。

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支給された米は、白濁した米、奇形米がほとんど

 無料低額宿泊の仲間の後押しに

 和解の主な内容は、(1)被告(シナジーライフ)は原告ら8人に慰謝料として計600万円支払う(2)被告は原告らに大きな精神的苦痛を与えたことについて謝罪する(3)被告は、被告の支援の下で生活する者の生活保護費、預金通帳を管理しない―などです。ほぼ、原告“勝利”の内容です。

 佐藤さんは「和解は、いまだに無料低額施設で困っている仲間たちの後押しになったのではないでしょうか。貧困ビジネスを撲滅するきっかけになればいいですね」と喜びます。議会でも追及した中村市議は「生活保護行政の姿勢をただすことに一石を投じたと思います。生活困窮者の自立に向けた努力をさらに支援していきたい」と語ります。丸山慎一県議(日本共産党)も県議会で取り上げ、問題の解決に大きく貢献しました。

 埼玉、愛知でも訴訟を継続中

 貧困ビジネスの不当性をただす訴訟は現在、埼玉、愛知などで継続中です。なかでも埼玉では、施設で支給された米を分析センターで検査し、劣悪な米だという結果がでています。貧困ビジネスの追及は続きます。


不当な貧困ビジネスに謝罪認めさせた意義は大きい

反貧困ネットワーク事務局長の湯浅誠さん

画像 シナジーライフのやっていたことがあまりにもひどかったので、“勝利的な和解”は当然の結果で、原告の方々が満足する形での決着はよかったと思います。原告の方々が勇気をもって立ち上がり、裁判に訴える覚悟を決めて取り組んでくれました。その結果、この裁判は、「貧困ビジネス」という言葉を世間に広め、原告の正当性を法的に立証するという先駆的なもので、社会的意義は大きいものでした。

 農民連食品分析センターの検査結果が裁判所に客観的データを示し、原告の主張の信ぴょう性をゆるぎないものにするうえで、大きな役割を果たしました。

 農民連さんには、派遣村(2010年)のとき、全国から米や野菜など炊き出し用の食材を届けてくれて感謝しています。いまも被災地で炊き出しを継続しているようですが、人々が集まり、お互いに顔を見合いながら、つながりをつくっていく場づくりになります。

 いまの農業を取り巻く状況は厳しく、農家のくらしも大変です。お互いの立場を尊重し合い、できるところは連携していく関係を維持していくことが大事です。

 私たちも引き続き、貧困ビジネスの実態をもっと世間に知らせ、根絶するために、粘り強く働きかけていきたい。

(新聞「農民」2012.4.30付)
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2012年4月

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