再生可能エネルギー電力の
買い取り制度について
(上)
日本環境学会会長 和田 武さん
(公害地球懇・学習会の講演から)
全量買い取り制度が
必要経費上回る価格設定にすべき
昨年8月に「再生可能エネルギー特別措置法(特措法)」が成立しましたが、買い取り価格や買い取り期間などの詳細は決まっていません。現在、7月からの実施に向けて、国会で承認された5人の委員による調達価格等算定委員会で、議論が急ピッチで進められています。同委員会の委員で、長年にわたって市民の立場で再生可能エネルギーの普及に取り組んでいる日本環境学会会長の和田武さんが、再生可能エネルギー電力の買い取り制度の動向について、公害地球環境問題懇談会の学習会で講演しました。その要旨を紹介します。
固定買い取りの特措法成立したが
今、世界では再生可能エネルギーが急増する一方で、日本での普及は立ち遅れ、比率でみると先進国の中で最低となっています。再生可能エネルギーが普及している多くの国で柱となっている政策が、再生可能エネルギー電力の固定価格買い取り制度です。
この制度は、「一定価格で長期間、再生可能エネルギーを電力会社が買い取る義務がある」というもので、これによって再生可能エネルギーの発電設備の所有者は安定した売電収入を得ることができます。買い取り価格や期間は、売電収入が設置費用を含めた総経費を上回るように決められ、所有者が損をしないように保障されます。このため、多くの人が取り組めるようになるのです。
ドイツではこの制度の導入によって、2010年までの10年間で、100万キロワット級の原発約10基分のエネルギーを再生可能エネルギー発電で増加させています。
昨年の原発事故で再生可能エネルギーが見直され、日本でもやっと昨年の8月、固定買い取り制度の「特措法」が成立しました。しかしこの「特措法」では、肝心の買い取り価格や期間が定められていません。当初の法案では経産大臣が決めることになっていましたが、それでは本当に再生可能エネルギーを普及するものにならないという世論が強まり、「大臣は、調達価格等算定委員会の意見を尊重する」と修正されました。
余剰電力だけの買い取りではダメ
どういう買い取り制度をつくればよいのか。再生可能エネルギーの発電をする人(業者)が、適切な利益が得られる条件、少なくとも損をしない条件であること、また初期投資の大部分を金融機関から融資を受けることができる制度であることが必要です。そうすれば市民や自治体などが主体となって広範な地域で取り組むことができます。また、普及のための負担は国民が払い、収益は企業にいくような制度ではだめなのですが、算定委員会でこうした理念が徹底できるかは、まだ予断を許さない情勢です。
また、電力会社はあらゆる再生可能エネルギーを全量買い取る義務を負う「全量買い取り制度」である必要があります。いま住宅用太陽光発電は余剰電力だけの買い取りですが、これではだめです(編集部注…この講演後、4月11日の算定委員会で和田さんの意見は退けられ、住宅用太陽光発電は余剰電力だけの買い取りが決定された)。
普及に必要なのは送配電網の整備 私は、買い取り期間は20年が適当だと考えていますが、算定委員会でも20年案で大きな抵抗は起きていません。
価格については、太陽光、風力などそれぞれに普及可能な価格で設定される必要がありますが、あまり高過ぎても混乱が生じ、必要な財源も膨らんで国民の負担が大きくなりすぎてしまうので、バランスが必要です。
また、再生可能エネルギーを普及させるうえでどうしても必要なのが、電力会社や国の負担による送配電網の整備です。せっかく再生可能エネルギーの発電設備ができても、送配電網につなぐのに膨大な経費がかかると、普及が難しくなってしまいます。
(つづく)
(新聞「農民」2012.4.23付)
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