本の紹介
佐藤フミ子 著
森住卓、郡山総一郎 写真
つなみ 風花 胡桃の花穂
避難所を転々、心の奥から
あふれだす「うた」の数々
岩手県陸前高田市は地震と大津波で壊滅し、佐藤フミ子さんの自宅と店舗も流されました。息子さんはいったん避難しましたが、避難所で見つからなかった両親を探そうと自宅にもどったところを津波で流されてしまいました。
83歳のフミ子さんは、夫とともに避難所生活を転々としながら、日々感じたことを大学ノートに五七調の「うた」を書いてきました。この本はその大学ノートから、被災当初の86首をフミ子さんが自ら選んだ自選集です。そして、写真家の森住卓さんと郡山総一郎さんの写真が、表紙や「うた」の合間に添えられています。
森住さんがフミ子さんと出会えたのは、「後世にこの惨状の中を生き抜く人たちの姿を記録しなければ」という森住さんの使命感だったでしょう。森住さんがフミ子さんと出会ったのは、震災後まもない集落の避難所でした。森住さんから写真集をいただいたお礼の返信はがきには、フミ子さんの悔しさと無念さ、そのときの空気やにおいまで感じられる15首の「うた」が鉛筆でびっしりと書かれていました。
森住さんはこう言います。「その悲しみの深さと重さはいつまでも伝えていかなければなりません。忘れてはならないのです」と。
最後に、フミ子さんの「うた」を1首。
「フミ子あんね」 生きてゐたかと 抱きついた バス停前の 蒲生ミチさん
▼定価 1000円+税
▼凱風社 TEL 03(3815)7633
(新聞「農民」2012.4.9付)
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