「農民」記事データベース20120312-1012-06

原子力損害賠償審査会

避難指示区域の見直しが
賠償切り捨てにつながる

 福島第一原発事故による損害賠償の基準づくりを進めている原子力損害賠償審査会(以下、原賠審)では、中間指針の「第二次追補」の策定に向けた議論が急ピッチで進められています。原子力災害対策本部(本部長は野田首相)は昨年12月、「原発事故そのものは収束に至った」として、3月末を目途に避難指示区域の設定を見直し、実施することを発表。原賠審に対して、この避難区域再編の実施までに、不動産・動産の減少分の算定方法や、帰還が長期間困難な場合の精神的損害などの賠償指針を策定するよう、求めています。


 20ミリシーベルト以下は早く帰還をと言うけれど

 非常に危ぐされるのは、放射線量によるこれらの新たな「線引き」が、早くも賠償の切り捨てにつながる方向で議論が進んでいることです。避難区域の見直しは、年間放射線量をもとに現行の警戒区域と避難指示区域を3区域に再編するという内容(イメージ地図および表1を参照)で、「年間積算線量20ミリシーベルトは(略)十分リスクを回避できる水準」とした原子力安全委員会の基準に基づき、20ミリシーベルト以下になることが確実な地域は、「一日でも早い帰還をめざす区域」としています。

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 原賠審の第2次追補の策定に向けた議論も、こうした避難区域の見直し方針に沿って進められています。しかし、原子力安全委員会も認めているとおり低線量被ばくの被害はまだ明らかになっていない部分も多く、雇用や生活再建などの問題も山積みのままです。政府が一律に「帰還をめざす」とし、「それに基づいた賠償基準を作れ」というのは、多様な住民の悩みや意見を無視した「賠償の切り捨て」以外の何ものでもありません。

 その典型が、昨年9月まで設定されていた「緊急時避難準備区域」の避難費用などの賠償を、2012年内で打ち切るというものです。すでに避難指定が解除された同区域は、「賠償対象となる精神的苦痛のうち“いつ自宅に戻れるのかわからない”という不安はなくなっており、今後は減額するのが妥当」との意見が委員から出されたためで、具体的な賠償終了の時期を引き続き議論することになっています。

 また、原賠審が現在、長時間かけて議論しているのが、「精神的損害などの賠償金を、一括払いとするか、従来どおり月払いとするか」という問題です。「帰還困難区域は5年間分を一括払いすべきだ」「いや居住制限区域も一括払いに」などの意見交換が延々と続けられており、被害者の悲痛な声に真摯(しんし)に耳を傾け、「原発事故の損害はすべて賠償させることを最優先に」という意見はほとんどないというのが実態です。

 動産・不動産の賠償は営農実態を反映すべき

 また「第2次追補」では、不動産・動産の賠償も大きな柱とされており、帰還困難区域にある不動産については、事故発生前の「時価」を基準に全額賠償する方向で議論が進められています。しかしこの原則のままでは、「時価」の低い農地の賠償額は、非常に低い算定になってしまいます。

 農地の汚染は、原発事故という“不法行為”によって引き起こされた被害です。「農地や文化財など代替性のないものは、時価を上回る損害も認めうる」とした中間指針に沿って、区域設定によって線引きすることなく、各農地の営農実態を反映できる賠償内容とすべきです。

(新聞「農民」2012.3.12付)
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2012年3月

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