漁業再建めざし漁民立ち上がる
岩手で県漁民組合結成
なんとしても操業再開、浜の復興を
漁民の喜びの象徴、大漁旗に囲まれながら、岩手県漁民組合が結成され、同時に岩手県農民連に団体加盟することも決まりました。そこには「3月11日の大震災で甚大な被害を受けた漁業をなんとしても再建し、漁村の活性化につなげたい」という漁民たちの強い思いがあふれていました。
農民連に加盟して運動と産直の発展を
大震災で、三陸沿岸の漁業者たちは大きな被害を受けました。昨年10月に、県漁民組合の誕生に先がけて、「山田漁民組合」を結成した山田町の漁業者たちも被害は同じです。
山田漁民組合の組合長に就任した佐々木安教さん(63)はホタテ、アワビなどの養殖に携わっていました。家は大丈夫だったものの、津波で倉庫や資材は流されました。「漁業再開のためのパールネット(貝を入れる網)購入の代金は政府の2次補正予算の対象外だった。これで再開をやめていった仲間も多い」と嘆きます。
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三陸沿岸の漁業再建めざして「がんばるぞ!」 |
佐々木組合長はようやく養殖棚の設置が終わり、稚貝の搬入を待って養殖を再開する段階にきています。
震災前はタコや毛ガニなどの漁をしていた橋端辰徳さん(63)は家も漁業資材もすべて流されてしまいました。今まで一人でこつこつと漁業再開の準備を進め、今年に入り、10カ月ぶりに漁に出ました。「行政が何もしてくれないなかで、マイナスの状況から船や資材はすべて自費でそろえた。いまは本格的な操業が待ち遠しい」と再開を静かに待ちます。
同じく家も資材もすべて流された阿部重雄さん(63)は以前、磯漁や海草採りに従事。「橋端さんに船をこしらえてもらったが、海が地盤沈下していて前に採れたものが今は採れない」と頭を痛めています。定年退職するまで客船と底引き網漁トロール船の船長を務め、退職後、漁業をやろうと夢を膨らませながら準備を進めていた佐々木勇さん(58)も、せっかく集めた資材を流されてしまった一人です。
農民連の迫力を見習い要求実現
佐々木組合長らは昨年12月、東北6県の農民連で構成する東北農団連による、東北農政局との交渉に同行しました。橋端さんは、そこで農政局を追い詰める農民連の迫力に圧倒され、「見習わなければ」と共感しました。佐々木組合長は「われわれはまだ交渉のノウハウをもっていない。これまでわれわれを物心両面で支援してくれた全国組織である農民連の力を借りれば、心強いし、交渉もやりやすくなる」と、農民連加盟を決めた経緯を振り返ります。
農民連との産直についても、「われわれが採ったものは、自分たちで値段をつけて、自信をもって売りたい。それには生産者の顔が見える産直が一番」(橋端さん)と期待を寄せます。県漁民組合の結成に阿部さんは「大きなステップを踏み出せた」と喜びます。
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漁業の本格的な再開を待つ山田漁民組合の仲間たち。(左から)佐々木勇さん、佐々木安教組合長、阿部さん、橋端さん |
佐々木組合長は「これからは大きな力となって交渉のテーブルにつくことができる。行政もわれわれの声を無視できなくなる。これをバネにして、行政の姿勢を大きく変えていきたい」と意気込みます。
組合結成で後継者の支えに道開いた
蔵組合長の話 震災後、一番困っている漁業者の声を届けるには、どう行動したらよいか考えてきた。このなかで、漁師に限らず、刺し網漁やかご漁、養殖などいろいろな漁種が加入できるよう漁民組合がいいのではないか、ということになった。このままでは担い手がいなくなり、被災した青森、岩手、宮城、福島の沿岸漁業がだめになると思い、もう一回立ち上がろうと腹を決めた。
組合が、少しでも漁業者の所得向上に役立ち、後継者の支えになればと思っている。
また、漁業と農業を比べると、全国的なネットワークは農業の方が充実している。全国に漁民組合を広げるためにも、全国組織である農民連の力を借りたいと思い、農民連への加入を決めた。
漁民の要求集めれば大きな成果えられる
結成総会は、山田町の「やまだ共生作業所」で1月22日に開かれ、県内6市町村から約25人が参加しました。
山田漁民組合の佐々木組合長が「組合の結成は、多くの漁民の声だ。漁業の振興と漁民の所得向上をめざしてがんばろう」と開会のあいさつをしました。
岩手県農民連の堂前貢副会長(農民連ふるさとネットワーク代表)が来賓あいさつ。「県漁民組合の結成は、明治維新前に県内で起きた大きな百姓と漁民の一揆、三閉伊一揆に匹敵するできごとだ。当時、黒船の来航により、日本に不平等条約が押しつけられたが、今はTPPで、農業・漁業が大打撃を受ける。みなさんの要求が正当で、周りの漁民の要求があれば、大きな運動に発展する。みなさんの力を総結集し、三閉伊一揆以上の運動を組織して、大きな成果があげられるよう農民連も協力したい」と述べました。
同時に産直について「漁民のみなさんとどのようなものができるのか、全国から期待が寄せられている」と紹介しました。
営漁と所得向上めざす漁協運営の民主化も…
三重大学の勝川敏雄准教授が講演し、海の資源管理と環境保全に果たす漁業の役割を語り、同時に、「魚の魅力を理解してくれる消費者を発掘していく必要性がある」と述べました。
参加者から「自信をもって魚を売りたいが、放射能汚染が心配。どうしたらいいのか」との質問が出され、勝川准教授は「国や自治体に調査や対策をとらせるなど、現場から声を上げることが大事。その点で漁民組合が果たす役割は大きい」と期待を寄せました。
堂前副会長は「農民連に加盟した機会に、食品分析センターの検査を活用してほしい。検体にかかる費用は、東電に請求できるよう運動で勝ち取った」と呼びかけました。
総会では、(1)営漁と所得の向上をめざす(2)漁民の声を大事にする漁協運営の民主化をめざす(3)強く大きな漁民組合をめざす―などの運動方針を決めました。
組合長には、洋野町の蔵徳平さん(76)が選ばれました。
総会結成のニュースは、その日のNHKテレビや翌日の地元紙などで報道され、その後、視聴した漁師から、組合への加入の問い合わせがあるなど、大きな反響を呼んでいます。
(新聞「農民」2012.2.6付)
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