どうみる「社会保障と税の一体改革」
農民連顧問税理士(立正大学客員教授)
浦野 広明さんに聞く
野田内閣は昨年末、「社会保障・税一体改革」の素案を決定し、消費税率を2014年4月に8%に引き上げ、さらに15年10月に10%へ引き上げるとしています。この「改革」の問題点を、農民連の顧問税理士で立正大学客員教授の浦野広明さんに聞きました。
とんでもない消費税増税
許さないたたかい大きく
消費税の増税、社会保障改悪も
――「社会保障・税一体改革」とはどんな内容なのでしょうか。
浦野 この改革は、消費税増税と同時に、社会保障の切り捨てと庶民大増税、大企業・高額所得者減税を内容としています。社会保障では、今年10月から3年連続して年金給付がカットされ、医療、介護、生活保護、保育などあらゆる分野の改悪が進められます。
「社会保障・税一体改革」で
福祉切り捨てのオンパレード
年金 |
・支給額を3年程度で2・5%減、その後毎年減らす。
・支給開始年齢を現行の「60歳から65歳へ引き上げ」を前倒しし、その後、68歳〜70歳に引き上げ。 |
医療 |
・外来受診のたびに定額負担を上乗せ、再診を100円から順次上げる。
・70歳から74歳までの医療費負担を1割から2割に倍増。 |
介護 |
・一定所得以上の高齢者の介護利用料を1割から2割に倍増。
・介護保険施設(特養ホーム)の利用者大幅負担増。
・要支援と認定された者の利用料引き上げ。
・ケアプラン(介護計画)作成を有料化。
・要介護1〜2の負担を増やし施設から締め出す。 |
保育 |
・国や自治体の保育実施義務をなくす。市場化や営利化推進。 |
消費税増税も社会保障改悪も、09年総選挙で民主党が掲げた公約(マニフェスト)を破るもので、議会制民主主義の形がい化、国民の政治不信を助長するものです。
くらしの破壊と貧困層増に拍車
――消費税増税で、くらしはどうなるのでしょうか。
浦野 今度の増税で、国民、農家のくらしが破壊され、貧困層の増大に拍車がかかります。消費税・地方消費税の納税額は、商品の販売やサービスの課税売上額から課税仕入れ額を引いた額の5%で計算します。法律上、消費税の納税者は事業者ですが、商品などの価格に含めて、消費者に転嫁されます。
消費者は、自分が生きていくために食料や生活用品を買わなければならず、消費税率が上がっても、その転嫁を受け入れなければなりません。
一方、大企業は、消費税増税を理由に価格をつり上げ、賃金や下請け業者への単価を引き下げることができます。その結果、より多くのもうけをあげることができるのです。
しかし、中小業者の多くは、大企業のように消費税を販売価格に転嫁できずに、赤字でも納めなければなりません。
さらに、消費税は、輸出による売り上げは納税が免除されているため、自動車、電機など一部の巨大輸出企業(多国籍企業)には法外な利益をもたらします。従って、消費税増税とTPP(環太平洋連携協定)への参加は一体のものであり、TPPとは「太平洋をまたにかけた輸出企業の利益追求戦略協定」ともいうべきものです。
税制改悪を狙い負担軽減なくす
――今回の「改革」では、消費税増税と並んで、あらゆる税制の改悪も問題になっていますね。
浦野 2012年度の税制改正大綱によれば、所得税でいうと、給与所得控除の大幅な縮小がうたわれ、給与所得者にとんでもない増税が押しつけられます。さらに、相続税の基礎控除の引き下げは、売買価額そのもので宅地を評価する方向とあいまって、多くの都市住民のなけなしの住まいに相続税を課し、都市住民の土地を取り上げ、「開発事業」を進める布石となっています。固定資産税も、住宅地の負担軽減を廃止することが検討されています。
問題点を学んで知らせ廃案に…
――私たちは何をすればいいのでしょうか。
浦野 野田首相は「消費税増税法案を今度の国会に提出し、成立させる」と豪語しています。
これから税金申告の時期を迎えますが、各地で学習会を大いに開き、税金の学習とともに消費税増税の問題点を多くの国民、農家に訴えましょう。そして、そこで学んだことを口コミでもいいから、知り合いや仲間に知らせ、必ず廃案に追い込まなければなりません。
大手の新聞は、巨大企業の広告料収入で成り立っており、この問題の本質を報道することができずにいます。新聞「農民」の役割がますます大きくなっています。
消費税増税を許さないたたかいを、農業の振興に役立つ他の諸課題とも一体で取り組み、政治を変え、世の中を変える運動に発展させることが重要です。
(新聞「農民」2012.1.23付)
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