北海道のみなさん
牧草ありがとう
支援うけた福島の酪農家がお礼の旅
「佐々木さん、斎藤さん、遠い北海道まで本当によく来てくださいました。原発事故はたいへんなことになりましたね」「いやあ、皆さんの牧草支援には、本当に励まされました」――福島第一原発の事故後、牧草が飼料にならなくなった福島に牧草を送る「牧草支援」にいち早く取り組んできた北海道農民連。道内各地から10トントラック20台分もの牧草や麦ワラを送りました。
「どうしても顔を見て、お礼が言いたい。そして福島の様子をお話ししたい」――牧草を受け取った福島の酪農家を代表して、農民連前会長の佐々木健三さん(福島市)と斎藤憲雄さん(川俣町)が、農閑期を迎え、すっかり冬支度の整った北海道を訪ね、農民連会員や酪農家と交流しました。
生産者同士の連帯だよ
空 知
今回、佐々木さん、斎藤さんが交流の旅で訪れることができたのは、空知、十勝、釧根の3地区。行く先々で「福島の酪農家と語る会」が開かれ、多くの農民連会員や酪農家、消費者が佐々木さん、斎藤さんの話に真剣に耳を傾けました。
佐々木さんは各地の「語る会」で、牛乳の出荷停止と廃棄、牧草が飼料として使えなくなったこと、深刻な風評被害と賠償請求のたたかい、そして警戒区域や計画的避難地域などでは、家族同然の牛たちを置いたまま避難しなければならなかったことや、子どもたちの健康への不安など、原発事故後の福島の様子をつぶさに語りました。
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別海町を訪ねた佐々木さん(左から3人目)と斎藤さん(右端) |
空知農民センターの「語る会」では、麦ワラを送った会員で、水稲・畑作農家の富沢修一さんが、「北海道では今年、原発事故や震災の影響で贈答品のメロンの価格や米価が持ち直しました。でもその一方には被害に苦しむ農家がいる。自分たちだけが経済的に潤って満足してしまうのでなく、被災した農家に思いをはせ、支援していくことが生産者同士の連帯だし、自らの生産者としての尊厳としても大切なこと」と、支援した思いを話しました。
長い支援続けたいから
十 勝
十勝では農民連十勝地区協議会の皆さんが2人を待ち受けていました。
十勝では今年、春小麦が不作で、麦ワラが大量に余っている人はおらず、支援ロールの収集も難航しそうでした。議長の阿保静夫さんは言います。「福島の放射能汚染はいつまで続くかわかりません。だから長く支援を続けられるように、無理をしないで1人1ロールずつ出し合い、みんなで送ることにしたのです」。「正直なところ運賃も高く、大きなロールを運ぶのはたいへんだから、送金しようかという声も出ました。でも金で済ませず、福島の仲間が現実に一番困っているものを送ろうと話し合ったのです」と、麦ワラ集めに奔走した畑作農家の伊澤満州男さんが続けます。
伊澤さんが農業用水を利用した小水力発電所の管理職員を兼業していることもあって、自然エネルギーの活用についても話が盛り上がりました。「十勝では家畜たい肥を使ったバイオマス・エネルギーのモデル事業も始まっています。農業は自然エネルギーの宝庫。自然エネルギーをもっと活用して、日本から原発をなくす運動を巻き起こしていきましょう」と、決意を新たにしあいました。
草ない苦しみ身にしむ
釧 根
「福島の苦しみは、他人事とは思えない。オレも昔、開拓間もないころ、冬に牧草が尽きたことがある。今思い出してもあれはつらい。牛が腹をすかして、鳴くんだよ。牛飼いなら草がないという苦しみは、もうそれだけで伝わってくるものがあるよなあ」――こうした声が次々と上がったのは、人口より牛の頭数が多いという別海町での釧根農民組合協議会との「語る会」でした。
釧根協議会には、輸入飼料に依存した大規模酪農ではなく、自給牧草に依拠した「マイペース酪農」に取り組んでいる会員が多く、牧草にかける思いはひとしおのものがあります。佐々木さんと斎藤さんも、「ぜひマイペース酪農の話をお聞きしたかった」と投げかけ、今日の酪農のあり方にまで話は及びました。
良心的な運賃の運送業者を探す苦労や、みんなで少しずつ牧草ロールを出し合い、大きさをそろえて積み込んだことなど、福島に送るための苦労話も笑いを交えて披露されました。
別海町の牧草を受け取った斎藤さんは、震災直後は停電が続くなか、腱鞘(けんしょう)炎になりながらすべての牛を手で搾乳したこと、そんな苦労をして搾った牛乳が廃棄処分せざるをえなかったことなど、原発事故後の苦労を語り、「北海道の牧草がわが家に着いた時、涙が出るほどうれしかった。本当にありがたかった。皆さんの支援が、心の支えになりました」と、お礼を述べました。
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空知での「語る会」に集まった皆さん |
別海町の森高哲夫さんは、マイペース酪農の紹介もしながら、「今回の原発事故では、農地に根ざし、自然を尊ぶ農業を続けてきた農家ほど、大きな被害を受けてしまったんですね。お二人のお話を聞いて、あらためて原発と農業は相いれないとの思いを強くしました」と、答えました。
たたかってこそ未来は開ける
「たしかに困難は山ほどあります。でも私たち福島の農民連は固く団結して、農民の要求に依拠した運動を全力で続けています。そういうなかで、桃農家が全面賠償を勝ち取ったり、農民連の会員が増えたりと、確かな歩みを築いています。たたかってこそ未来は開けるということを実感しています」と佐々木さん。斎藤さんは、「生涯をかけて培ってきた我が家の酪農をこんな目に遭わせた東電には、腹の底から強い怒りを感じています。私たちの願いは、福島で農業を続けて、暮らしていくことです。たたかいはまだまだ続きます。みなさん、これからもご支援よろしくお願いします」と訴え、どの会場でも大きな拍手でこたえました。
(新聞「農民」2012.1.2付)
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