本の紹介
タネが危ない
野口勲 著
ミトコンドリアが鍵を握る
F1種の品種改良への疑問
30年以上前になるだろうか、ホウレン草のF1種が普及し始めたころ、固定種の畑にはムクドリが食べに来るが、F1種の畑には来ない。こんな経験から品種改良への疑問を持つようになった。最近、その疑問に答える一冊の本を見つけた。
著者の野口さんは少年時代、手塚治虫の漫画に出会い貸本劇画にはまった。漫画編集者をめざして大学に進学したが、手塚先生のそばにいたい一心で中退し、「虫プロ出版部」に就職した。
野口さんは、「手塚漫画は命の尊厳と地球環境の持続。どんな生命も等しく大切であり、お互いがつながっている。だから人間の価値判断で、自然界に回復できないダメージを与えてはならないと訴えている」と言う。
だから種屋の三代目として「雄性不稔という花粉のできない突然変異の個体から作られるF1種は、子孫を残せないミトコンドリア異常の植物だけが、たった1粒で1万、1億、1兆、1京と無限に増やされて世界中の人々が食べていることを、どれだけの人が知っているのだろう。動物に異常は現れないのだろうか。こんな素朴な疑問をしばらく追求してみた」と、本書の「はじめに」で述べている。
なかでも第2章「すべてはミトコンドリアの采配」では、小見出しの順に「生命が続いていくということ」「タラコは吉永小百合の卵子何年分?」「タラコ一腹三十万粒、人の一生の卵子は四百個」「二十万年前から連綿と続くミトコンドリア遺伝子」「人はミトコンドリアによって生かされている」「植物にも動物にもミトコンドリアがいる」と続く。野口さんはそこで、地球上の生命誕生とその進化をたどり、「ミトコンドリアが、いかに我々の生命にとって大事なものか認識していただいた上で」、野菜の品種改良を論じている。
よりおいしい野菜生産をめざすみなさんに、ぜひ一読をおすすめしたい。
(農民連本部 齋藤敏之)
▼定価 1600円+税
▼日本経済新聞出版社 TEL 03(3270)0251
(新聞「農民」2011.10.3付)
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