耕作放棄地とソーラーベルト
全農林労働組合筑波地方本部OB 中山熙之(ひろゆき)
〈投稿〉
農業生産こそ日本のつとめ
福島原発の事故を受けて、原発をやめて自然エネルギーに切り替えようという動きが盛んになっています。
環境省は4月に「日本の再生可能エネルギーは、潜在的に21億キロワット」―原発なしでも十分やれるというわけです。しかし問題は、環境省が太陽光発電普及の最大候補として「耕作放棄地」をあげ、原野化・森林化している耕作放棄地は7000万キロワットの発電ポテンシャル(余力)を持つといいます。ソフトバンクの孫社長も、「耕作放棄地に太陽電池を敷き詰めてソーラーベルトにしよう」と、テレビで言っていました。
冗談ではありません。こうした人たちには、爆発的に増加する世界人口と、じわじわとせまってくる食糧危機がまったく見えないのでしょうか。中国やインドなど、人口が著しく増加している国では、右肩上がりで食糧の輸入が増加しています。だから「金を出しても食糧を輸入できない」時代になりつつあり、日本もいまのように食料自給率の60%も輸入でまかなうことは、いずれできなくなるでしょう。
日本のように、気候的にも水利的にも、技術的にも農業生産ができる国は、生産に励むべきです。これは、自国民への食糧供給という面ばかりでなく、人道的な面からも求められていることです。なぜなら、砂漠や極北の地で農業生産をしたくてもできない国を想像してみてください。農作物を作れる日本が作るのをさぼり、作るに作れず飢えに苦しむ国の目の前から金にまかせて買いあさる―これは、道義的に許されがたい行為であるからです。
日本が食糧増産を増やそうとするとき、もっとも基本になるのは、土地と水と気温ですが、このなかで問題なのが土地です。耕す土地がなければ農業はできません。増産する上でもっとも有望なのが、耕作放棄地です。たとえ原野化・森林化されていたとしても、一度は農地として使われていたのですから、地形的にも土壌の上からも営農が可能であることは保証されています。いわば、来るべき食糧危機に立ち向かう「希望の星」が耕作放棄地なのです。太陽電池パネルでおおってしまうなど、もってのほかと言うべきでしょう。
(新聞「農民」2011.10.3付)
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