「農民」記事データベース20111003-991-03

東電の“算定基準”と請求手続き
加害責任とらないとんでもない内容

 福島第一原発事故の損害賠償について、東京電力は9月21日、企業や農家に対する賠償金の“算定基準”を発表しました。東電はこれに先立つ8月30日には個人向けの“算定基準”を発表し、請求書など書類の発送を始めていますが、東電が2回にわたって示した“算定基準”と請求手続きは、原発事故を引き起こし、人々の生活を破壊した加害者としての自覚のない、とんでもない内容となっています。


 被害者を苦しめる煩雑・難解な請求書

 60ページもある請求書と160ページにも及ぶ説明書――被害者に向かって、東電が示した賠償請求の書類は、請求のしやすさなど一顧だにしない、膨大なものでした。あまりに煩雑な書類の提出要求に、福島県知事をはじめ被災地の自治体首長などからも強い抗議の声があがっています。

 しかし東電は「善処する」と言うものの、実際には書類の簡略化や手続きの見直しなどはしないことを記者会見で明言しており、被害者の「東電はまるで請求をあきらめさせようとしているかのようだ」という痛切な声に背を向けています。

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 「中間指針」も守らない勝手な“算定基準”

 さらにとんでもないのが“算定基準”の内容です。東電はこれまで「(原子力損害賠償紛争審査会の)中間指針に則って賠償する」と繰り返しており、賠償を先延ばしする口実にも使ってきました。「中間指針」も原発事故の損害すべてを賠償するには程遠い不十分な内容ですが、今回東電が示した“算定基準”はその「中間指針」すら順守しておらず、東電に都合よく「中間指針」にはない基準が加えられる一方、「賠償すべき」とされたものが先送り、または無視されています。

 その顕著な一例が「観光業の減収の20%は地震・津波のせいだから賠償額を減額する」というものです。東電は「阪神大震災のデータを参考に算出した」と説明していますが、今回の原発災害は東電が起こした事故による人災であり、単なる自然災害と同列視できるものではありません。

 また東電は「地震・津波による損害は原発事故とは関係ないので賠償しない」と明言し、地震・津波と原発事故の被害を切り分け、証明することを被害者に求めています。しかし原発事故さえなければ、多くの被害者が故郷にとどまって地震・津波の復旧・復興にも取り組めたのです。東電のこうした姿勢は、原発災害を少しでも小さくし、賠償額を値切ろうとするものです。

 また東電は「中間指針」にもない細かい計算式を勝手に示したり、自主避難など避難区域外の賠償範囲を狭めるなど、被害の切り捨てを図っています。しかしそもそも加害者である東電が、被害者に向かって一方的に算定基準を「定める」ことに、根本的疑義を禁じえません。「原発事故がなければあったはずの利益、被ることのなかった損害は賠償されるべき」とした中間指針を忠実に順守するなら、東電のいう「当社の定める算定基準」などありえないもの。しかも中間指針では冒頭に「この指針にないものでも、賠償の対象となる」と明記されているにもかかわらず、この精神もまったく無視されています。

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膨大な量の説明書と請求書

 追加請求を妨害する「合意書」への署名

 東電が賠償金の支払い条件としている「合意書」への署名も、大問題をはらんでいます。合意書には「一切の異議・追加の請求を申し立てることはありません」という一文があるからです。現に東電は農民連との交渉では「追加請求にも応じる」と回答しましたが、これを合意書に明記することは拒否しています。

 この合意書について、日弁連(日本弁護士連合会)は賠償手続きに関する会長声明を出して、「一度合意してしまうと、その期間のその項目については、それ以上の請求ができなくなる。賠償額に不満あるいは疑念がある時には、安易に署名しないように」と、強い危機感をこめて被害者に呼びかけています。また東電が領収書や証拠書類はコピーではなく「原本」の添付を要求していることについても、「紛争解決センターでの仲介や裁判などで、被害者の不利益になる恐れがある」と危険性を指摘しています。

 支払いは3カ月ごとではなく毎月せよ

 東電は、9月27日に農家や企業向けの書類の発送を開始し、8月までの損害を10月中に支払い始め、その後は3カ月ごとに区切って請求を受け付けるとしています。しかし12月にさまざまな支払いや清算が重なる農家経営にとっては賠償金の支払いが3カ月ごとでは、たまったものではありません。東電は「1カ月ごとでは事務処理が追い付かない」ことを口実にしていますが、それは加害者側の勝手な都合であり、被害者の実態に真しに向き合うべきです。

 請求手続きの簡素化とあわせて、東電の“算定基準”や「中間指針」のあるなしにかかわらず、原発事故によって現実に受けた被害は、細大もらさずすべて賠償請求していく運動が強く求められています。

(新聞「農民」2011.10.3付)
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2011年10月

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