飯舘村の子どもと
フライブルク(ドイツ)訪ねて
(上)
福島県農民連事務局長
根本 敬さん
全村避難が続く福島県飯舘村の中学生18人が、村が企画した「未来への翼プロジェクト」で、8月8日から10日間、自然エネルギーを学ぶためにドイツ・フライブルクを訪問しました。この研修に同行した福島県農民連の根本敬さん(事務局長)の「訪問記」を2回にわたって紹介します。
原発を拒否してつくりあげた
美しい豊かな「黒い森」と環境首都
美しい風景と豊かな時間
ドイツには、美しい風景の中で豊かな時間を楽しむ世界があった。仕事に追われ“貧しい時間”の日本で暮らすしかない私には、羨望(せんぼう)を超えて“辛さ”がこみ上げてきた。どうして、こんなに違ってしまったのだろうか。
そのヒントを、フライブルクで森林官をしているミシェル・ランゲさんが教えてくれた。ドイツの森林官は青少年のあこがれの職業であり、また社会的地位が高く、そこに到達するには長期にわたる学習や経験が必要とされている。ランゲさんはこう語った。「人間が暮らす自然は、多くを人間がつくったものであり、人間が作りかえたものである。だから、きちんとした自然観や科学的知識、歴史から学ぶ見識がないと自然は壊されてしまう」と。
飯舘村の中学生たちは、ワークショップでこうした話を聞き、乗馬を楽しむうちにすっかり心が開放されたのか、歓声をあげながら牧場内を走りまわっていた。ランゲさんは、こうした子どもたちを見て、「おとながゆったりとした時間を過ごせば、自然と子どもたちも心が開放される」と話した。ランゲさんは倉庫の屋根に30キロワットのソーラーパネルを設置している。総工費は約2000万円。補助金はなく、手持ち資金と銀行からの融資で作ったそうだ。森林官で牧場を持ち、発電を行い観光業も営むランゲさんは、まさに「百姓」であった。
|
フライブルクの街なみ |
市民自ら事業をおこし、政治を変えてゆく
多くの農家が太陽光パネルを設置し、市民が風力発電の事業に参画しているドイツ。私たちが視察したすべてのケースに行政からの補助金はなく、すべて自己資金と融資で事業を進めている。
フライアムト村の風力発電は、総工費が3億円。高さ138メートルという巨大で最新鋭の風車を設置している。約200人の出資者で事業費を集め、地元中小企業の共同体で建設したという。ランゲさんの次男マックス君(12)が質問した。「この事業は採算がとれるのか」と。日本の中学生たちはポカンとしていたが、ドイツのこの年代の子どもたちは違う。村の担当者は「年間6%の配当ができる」と答えた。
|
フライブルクと飯舘村の中学生が交流 |
また、50ヘクタールにトウモロコシと牧草を作付けし、バイオガスと温水を供給する農家を訪ねた。2000年のBSE問題で牛と豚の飼育からバイオガス事業に転換した。説明に来てくれた奥さんが、「牛に食わせていた牧草をバクテリアに食わせるようにしただけ」と涼しげに語った。売電と温水供給で経営を行っている。建設資金1億円は、自己資金と銀行からの融資だそうだ。息子さんが電気技師で設計とメンテナンスをこなすという。
(つづく)
(新聞「農民」2011.9.12付)
|