「農民」記事データベース20110905-987-10

旬の味


 福島から桃が届いた。大きく堂々としていて中身は完熟。ひと口食べて「あ〜、桃だ〜」と満足する甘さに、仕事も雑念もいっさい忘れる▼元農家だったわが家の畑に、40年前父が桃を植えた。10年後に父は亡くなり、残された家族が桃の世話をする羽目になった。その素人づくりのわが家の桃と、福島の桃はまったく違う。「プロが作るものはさすが」とつくづく思う▼いま、スーパーに並ぶ見事な桃は1個100円。例年の半値以下だろう。桃をここまで育てる技と苦労と愛情の“爪(つめ)の垢(あか)”ほどが実感できる者として、この理不尽な仕打ちに胸が痛む▼何が起ころうと、季節ごとの手間ひまをかけ、手を抜けない桃づくり。実りの秋を祈るばかりの緊張感で迎えなければならない米の生産者も同じだ▼一方、消費者の側でも「食べて支援」ができるか否かで悶々(もんもん)とした悩みが深まっている。決して許せない東電と国への責任を追及しつつ、さし迫った毎日の食卓の問題は深刻だ。福島の桃がいいようもなくいとおしい。

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(新聞「農民」2011.9.5付)
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2011年9月

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