「風評」で収入ゼロのキノコ農家
送電止められ生産ピンチ
群 馬
東電は誠意示しすぐ賠償せよ
東京電力前橋支社は7月5日、キノコの菌床栽培をする青年(兄弟)に対し「7月11日までに電気料を払わなければ、送電を停止する」と通告してきました。経営がやっと軌道に乗り、いよいよ本格的に出荷という時に、放射能汚染の風評被害による出荷契約のキャンセルなどで、売り上げがほとんどなくなり、月額20数万円の電気料が払えなくなったのです。青年は「原発事故のせいで売り上げが激減し、生活もままならない。電気を止められたらキノコは全滅し、さらに被害が拡大する」と、停止の猶予を求めましたが、「料金は払ってもらう。出るところ(裁判)へ出てもらって構わない」などと拒否されました。
責任は東電にあり
相談を受けた群馬農民連は、ただちに東電に抗議するともに、全国連から国が実質的な保証を行う「つなぎ融資」の情報をもらい、農協に融資を申し入れました。この制度を把握していなかった農協が農水省に確認したところ、「東電に賠償請求書を出していることが前提」ということでした。
さっそく、農民連の様式で請求書を作成し、東電の「群馬補償相談センター」に対し請求書の受け取りを要請しました。当初「風評被害については国の指示が出ていないので、正式には受理できない」と拒否しましたが、「事情と緊急性を考慮し受け取れ」と強く要求した結果、しぶしぶ受けとりました。
やり取りの中で、農民連が「責任は東電にある。料金は賠償金と相殺するのが妥当ではないのか」と求めると、「被害者への料金納入猶予は国から許可されていない」「会社がつぶれれば、会社更生法によって損害賠償は後回しになる」などと、まったく無責任な発言が繰り返されました。さらに翌日持参してきた「受領書」には、「現時点で債権債務の関係を確認するものではない」との断り書きがあったため、農協は「正式に受理されていない」と判断しています。
担当者が暴言はく
青年は「電気を止められたらキノコ生産は致命的」と、何とかやりくりして半月分の電気料金を支払い、7月20日まで送電停止を猶予されました。東電は「後は(融資が受けられるか)様子を見て判断する」という姿勢です。その後、「しんぶん赤旗」で報道されたこともあり、記者会見で追及を受けた東電本社は「個々の申し出により支払い延期など柔軟に対応している」と回答。前橋支社に確認すると、担当者の暴言について初めて謝罪しましたが、料金の支払いについては、依然「融資の様子を見ている」状況に変わりはなく、いまも送電は止められていません。また、「つなぎ融資」については、県、農協、市、信用基金協会と、何度も堂々巡りした結果、県に「受け皿」がないために利用できないことがわかりました。
「風評」も対象に
群馬農民連は8月16日、県に対し「風評被害はこれからも続き、畜産農家などへの影響は深刻。風評被害も対象にしたつなぎ融資を」と、「受け皿」となる制度をつくるよう要請しました。県は「出荷停止を対象にした制度がすでにあるので、新制度は作れないが、先日の検討会で『国のつなぎ融資』について周知した。基金協会が『やります』ということになったので、周知につとめる」と回答しました。
(群馬農民連 目黒奈美子)
(新聞「農民」2011.9.5付)
|