本の紹介
橋本 紘二著
写真ルポルタージュ3・11
大震災・原発災害の記録
被災農家の記録だけでなく
心の傷の深さを切々と描く
本書は、『現代農業』のグラビアなどで知られる写真家の橋本紘二さんが、東日本大震災(長野県北部地震を含む)の被災地をめぐってまとめた写真集です。
東北地方の沿岸部で撮影された写真は、大地震と大津波による破壊のすさまじさをまざまざと伝えますが、同時に橋本さんのカメラは、震災前までたしかにそこにあったはずの日常や、暮らしていた人たちの悲しみをも追い求め、得意のモノクロームによるルポルタージュの手法で、巧みに映像に写し取っています。
とくに、長年農業の取材に携わってきた著者だけに、農村の取材には独自の視点が感じられます。被害を記録するだけでなく、打ちのめされた彼らの心に寄り添い、その傷の深さを切々と描き出します。主を失ってさまよう肉牛や、枯れてしまったハウスキュウリの写真からは、農家の嘆きの声が聞こえてくるようです。また、福島第一原発の事故で村を追われる酪農家の姿からは、彼らの無念とともに、大地を汚した東京電力に対する橋本さん自身の強い怒りが、静かに伝わってきます。
しかし本書は、悲惨な現実ばかりを描いているわけではありません。苦悩を乗り越えて復興へと動きはじめた人たちの、まだ小さいけれどもたくましい歩みがしっかりととらえられています。
報道機関の記録とはひと味違う、土のにおいのする現場報告です。
▼定価 1400円+税
▼農山漁村文化協会(農文協)
(新聞「農民」2011.8.15付)
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