米
非常事態―大震災・放射能
なぜ先物取引なのか
農水省が認可した米の先物取引の試験上場。東京穀物商品取引所(東穀)と関西商品取引所はそれぞれ8月8日から取引を開始します。東日本大震災の被災地では農業の再生に向けて懸命な努力が始まろうとする矢先に、米を投機の対象にする先物取引を認可した政府・農水省の姿勢が問われています。
投機家が主役で生産とは無関係
先物取引は売った商品を限月(取引の終了月)までに買い戻して、差額を精算し、逆に買った商品は限月までに売り渡し、差額を精算して取引を終了するのが基本です。実際に商品が受け渡しされるのは例外中の例外で、過去の実績では商品の受け渡しはわずか0・08%にすぎません(表)。米の先物取引も主役は当業者(農家や米業者)ではなく、圧倒的に投機家によるマネーゲームの舞台になり、生産とは無関係に投機家の思惑で米価が左右されます。
昨年秋は空前の米価下落を記録しました。ところが大震災で供給不安が懸念されると、業者間の取引価格は一転して30%も急騰しました(図)。ただでさえ不安定な米価が、投機筋の介入でいっそう激しく乱れることは避けられません。
米価乱高下の下では米作りも中小の米業者の経営も成り立たず、消費者にとっても主食の安全と安定供給が置き去りにされ、なによりも国産米が口にできなくなってしまいます。
先物取引の危険自ら認めながら
2005年にも同様に認可が申請されましたが、小泉政権ですら認可しませんでした。今回、農水省は「当業者の参加希望が前回の20から60に増え一定の取引が見込める」「数量制限や値幅制限が設けられ、生産や流通に影響が少ない」などと認可の理由を説明しています。しかし、参加希望者60は当業者(米農家170万戸、登録米業者8万)の0・003%にすぎません。また、取引に数量や値幅の制限を設けること自体、先物取引がいかに危険で価格の乱高下を招くかを自ら認めているようなものです。
今回の認可に際して農水省は関係者とまともな意見交換の場を設けず、野党はもちろん与党からも反対や「慎重に」の意見にも耳を貸しませんでした。
TPP参加と同じ路線上で
なぜ、こうまでして早急に認可したのでしょうか。政府は今、関税ゼロを原則とするTPP(環太平洋連携協定)への参加を強引に進めようとしていますが、米の先物取引も同じ市場原理に走る路線の上で進められているのです。財界の強い圧力の下で「米農家や消費者より投機の自由」「日本の農業よりも貿易の自由化」の逆立ちした政策。政権維持に窮し、危険な道に向かう菅民主党内閣の暴走をくいとめなければなりません。
原発事故による米の放射能汚染の不安は、日本全体へと広がり、“米非常事態”とも言うべき状況となろうとしています。政府が今、やるべきは米の検査と管理に万全の対策をとり、国民が安心して新米が食べられるようにすることです。主食をマネーゲームでもてあそぶ米の先物取引はただちに中止し、需給と価格の安定に国が責任をもつ当たり前の政策に転換すべきです。
(農民連ふるさとネットワーク 横山昭三)
(新聞「農民」2011.8.15付)
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