TPPは世界の飢餓と
地球温暖化に拍車かける
TPP(環太平洋経済連携協定)に参加し、関税などの国境措置を完全に撤廃した場合、カロリー自給率は40%から13%に低下し、小麦や砂糖の生産は壊滅し、米も90%減少する――農水省は昨年10月、こういう試算を公表しました。また、これに先立つ07年の試算では、約6割に当たる農地272万ヘクタールがつぶれるか耕作放棄地になるとされていました。いずれも、日本の農業と食糧に決定的な打撃を与えることはいうまでもありません。
同時に日本のTPP参加は、世界の飢餓と地球温暖化にきわめて重大な悪影響を及ぼすことが、JA全中の委託研究から明らかになりました。
飢餓人口を9億から12億に増やす
全中の委託を受けた農業経済・気象・人口などの専門家グループでつくる「人口・開発研究委員会」は「TPPが農業・人口・環境に与える影響」と題する報告をまとめました。この研究によると、日本がTPPに参加すれば、アジアのコメ需要をひっ迫させて米価を2倍に押し上げ、アジアの米食人口の1割、2・7億人が飢餓に陥る可能性があります。
研究にあたった辻井博・京都大学名誉教授は、日本がTPPに加入して関税を撤廃した場合、米輸入は700万トンに達すると試算。同氏の試算は農水省試算とは方法が異なりますが、700万トンが輸入されるという結果は同じです。
同名誉教授は、1993年大凶作時の日本の250万トンの緊急輸入、1979〜81年の韓国の330万トン輸入の経緯から、ジャポニカ米の輸入が10%増加すれば国際米価は30%上昇すると推定。世界貿易量2000万トンの3分の1に当たる700万トンを日本が輸入した場合、現在1トン600ドルの国際米価が630ドル上昇し、1230ドルに急騰するとしています。
米はアジア人口42億のうち27億人の主食であり、東南・南アジアの人々のエンゲル係数は40%程度。つまり、家計支出の半分近くが食費であり、その大部分が米に向けられています。この状態を米価急騰が襲えば、現在でも3・7億人(13・8%)に達するアジアの米食民の飢餓人口がさらに2・7億人(10%)増え、世界の飢餓人口は10年の9・25億人から12億人に達するというのです。
なお、この試算はアジアに限られていますが、最も飢餓が深刻なアフリカでもアジアからの米輸入が増えており、影響は世界的なものに深刻化するでしょう。
フードマイレージは43%増
もう一つの大問題は地球温暖化です。世界最大の食糧輸入大国である日本は、食糧を輸入するために膨大な化石燃料を使い、CO2を発生させており、輸入量と輸送距離を掛け合わせたフードマイレージは、ダントツの世界一です。
「人口・開発研究委員会」の研究によれば、このうえ食料自給率が40%から13%に下がると、フードマイレージは43%増加し、CO2排出量は1290万トン増えるといいます。
これは、日本の09年の温室効果ガス(CO2換算)12億900万トンの1%にあたります。すでに25%削減は絶望的で、民主党政権は目標棚上げを画策していますが、TPP参加はこれに拍車をかけるものです。
TPPは日本の国の形を変え、国民全体に重大な脅威であるだけでなく、世界の形を変え人類に重大な脅威を与えるものといわなければなりません。
(新聞「農民」2011.8.15付)
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